テナガエビ釣り ー初めて編ー

テナガエビを釣ってみたい

「テナガエビ」というエビがその辺の川で釣れて、しかもとても美味しいという話を聞いた。 河口付近の流れが緩やかなところに棲んでいるエビらしい。

ちょうど多摩川が家から近いし、釣るのにそこまで大仰な支度も必要なさそうだ。しかもちょうど梅雨時から秋口までがシーズンだという。
今後の趣味として、日常をあまり乱さずに気軽にできて季節を感じながら続けられるものを模索している身としては、かなり気になる。といいつつ、大きな冒険にも憧れるんだけど。

そういう訳で、勢いに任せてAmazonでテナガエビ釣りセットを購入したものの、川釣りの経験はなく、釣具屋へ行っても何が何だか分からず眩暈がするという具合の私。竿と仕掛けが届いても、すっかり持て余してしまっていた。
どうにも最初の一歩を踏み出せずにいたところ、同じくエビ釣り初心者の365日野草生活さんの紹介でテナガエビ釣り経験者の方と一緒に釣りに行く機会を設けていただくことができた。

エビ釣り初体験

当日は経験者のKさんとテナガエビ釣り初心者3名で朝の多摩川へ。 場所は多摩川では比較的有名なテナガエビスポットだ。
写真のように木の杭があったり、テナガエビが隠れられる消波ブロック、ゴロタ石などがあるところがポイントととなるらしい。

木の杭が竿を置くのにちょうどよかった
釣り場に着いたら、まずは仕掛けの準備。 Kさんが一つずつ丁寧に仕掛けの作り方を解説してくださった。
あらかじめ作ってきても良いが、テナガエビの仕掛けは比較的単純なのでその場で作っても問題がないそうだ。 深さや状態によって臨機応変に仕掛けの長さやおもりなどを変えることができる。(仕掛けについては続編に。)
チチワ結び、ガン玉、など知らない単語続出だったが、子供にもわかるようなレベルで一緒に仕掛けを作りながら教えてくださったので、私でも覚えることができた。

手間取りながらも仕掛けを作り、餌の赤虫を小指の爪ほどの小さな針につけたら早速竿を出す。
日陰になっている岩の裏やブロックの隙間などテナガエビが隠れていそうなところへピンポイントで餌を落として、テナガエビが食いつくのを待つのだ。


待つのだ・・・・


活性が高いとエビの姿を目視で確認することができるというが、一向に姿が見当たらない。
大きなコイが悠々とこちらへ近寄り、我々を鼻で笑うように一瞥をくれるとまた悠々と去っていった。 他にも、小魚の群れやアメンボが姿を見せにやってきて、普段あまり川へ近寄らない私にはそれだけでも楽しい。前日に酒を飲み過ぎて、正直ちょっと眠いし。

本日の多摩川に異常なし。パトロールした気分でビール飲んで帰ってもいいかな・・・なんて。

水面に映る空がもう夏

と、そのとき、エビ釣り初心者(ただし、川釣り上級者)のYさんから「釣れた!」との声が。
記念すべき1匹目のテナガエビだ!

1匹目を釣り上げてご満悦のエビ男爵
Yさんいわく、エビが歩いているのが見えた、と。活性が上がってきたのだ。 その後もまだ苦戦していた我々を尻目に次々とテナガエビを釣っていくYさんには「エビ男爵」のあだ名がついた。

こうなってくると寝不足の私の目もパッチリ開いて、急にやる気がみなぎってきた。 誰かが釣ると急にやる気が出るタイプ。 偏光グラスを駆使して水中のエビを探すが、目が慣れずに魚なのかエビなのかなんだかよくわからない。 普段ディスプレイばかりを見ているから目の焦点距離が30cmくらいに固まってしまっているのだ。 少し離れるとさっぱり見えない。

見えないなりに生き物っぽい影があるあたりに餌を落とすと、まもなくビクビクッというアタリが!!
何だ何だ!
なんかエビじゃないような予感がするけど、全く無反応だった竿先に刺激があると何だって嬉しい。 期待を込めて竿を上げる。真っ黒でどぅるっとしたシルエット。やっぱりエビじゃない。

九死に一生を得たヌマチチブくん
これはヌマチチブ(ダボハゼ)と呼ばれる魚で、テナガエビ釣りの外道として良く釣れるそうだ。 食べられないこともないらしいのでキープしようかと少し迷ったが、「そんな保険をかけていては釣れるものも釣れないぜ!」と何故か根性論をぶつけてくる謎の人格が心の中に現れたのでリリースした。

「サカナ釣れたもんね!ボウズじゃないね!」という365日野草生活さんの励ましで少し元気になったけれど、私だってエビを釣りたい。

待望のテナガエビ

だんだんと目が慣れてきて、水中の様子が見えるようになってきた。
よく見ると自分の餌が狙ったところに全然落ちていないことに気づいた。 ハリスを少し長めにとったので、おもりが底についていても餌が障害物に引っかかっていたり、流れによって狙いから離れたところへ落ちていたり。これが釣れない原因かもしれないな。
注意深く竿を動かして餌の赤虫が岩陰付近に落ちるように調整をし、しばらく置き竿にした。水をを飲んで一息ついたり、他のメンバーに釣れた時の様子などを聞いてから戻っても竿にもウキにも変化はない。

餌でも付け替えるか、と竿を上げるといきなりビンビンビンッという激しい抵抗と共に何かがグルグル回りながら上がってきた!

エビだエビだ!

待ちに待ったテナガエビだ!
上げてみるとこんなに小さな体なのに、竿への抵抗感がすごかった。テナガエビはその名の通り長い腕が特徴なのだが、腕が長くなるのはオスのみ。私が釣ったのはメスのようだ。 何でもいい。テナガエビには違いない。口元が思わずにやける。
しかし、悦に入っている暇はない。さっさと餌を付け替え、どんどん釣るぞ!

テナガエビ釣りは意外と繊細

そのあとは「時合」が来たようで、全員まんべんなく釣れるようになった。
釣れてくると本当に面白い。

私はテナガエビが沢山住んでいる、通称「テナガマンション」になっている岩陰を発見し、そこで連続4匹釣ることができた。これを見つけたときの気分はまさに最高。

365日野草生活さんとほぼ同時にHit!

その名の通り手が長いオスもちゃんと釣れた

テナガエビの姿も見えるようになってきた。
観察していると、エビは餌を見つけるとまずその長い腕で餌を掴み、自分の隠れ家まで持っていく。 落ち着ける場所へたどり着いたら口元へ餌を持っていってから、ようやく食べ始めるのだ。
最初に餌をつかんだ時点で引き上げてしまうと、残念、ほぼ逃げられてしまう。 餌を持って帰ってむしゃむしゃと食べ始めたら、(大抵この時はすっかり影に隠れて見えないので想像だが)ゆーっくり竿を引き上げて僅かに抵抗があることを確認、そのままぐっと持ち上げると口にバッチリ針がかかるという寸法だ。

見つけたエビを追いかけて、近くに餌を落とし、エビとの駆け引きをして思い通りに釣れると思わずガッツポーズが出てしまう。このように獲物を見て釣る釣りをサイトフィッシングと言うんだって。 今まで獲物が見えない海での船釣りしかしたことがなかったのでとても新鮮だ。

正直にいうと、この日釣りに来るまではテナガエビ釣りについて全く分かっておらず、同じくエビ釣り初心者の365日野草生活さんと一緒に「道具なければその辺の棒で釣るか」なんて言っていた。(その後、ザリガニ釣りじゃないんだから、と総ツッコミを受けた。)
これは思ったよりずっと繊細でちゃんとした釣りだ。 タコ糸とスルメで釣れるザリガニとは全然違う。見えないエビを釣るのも、見えるエビを釣るのもどちらも楽しいな。

釣ったエビはエアーポンプを入れたクーラーで活かしておく

昼過ぎまで釣って、釣果は4人で30匹程度。初めてにしては大漁だ!
しかも、抱卵していたメスはリリースしたので実際はもう少し釣っている。大事に卵を育てて、また来年も楽しませてね。なんて、勝手な話なんだけど。

抱卵したメス。おなかの黒っぽいのが卵だ

テナガエビの味は・・かっぱえびせん?!

釣りを楽しんだら、今度は味を楽しもう!ということで、釣りをしたメンバーでエビを揚げて食べることに。
ネットで調べると、「綺麗な水で1週間ほど飼って泥抜きをしましょう」なんて書いてあるから、しばらく食べられないのかと思っていたけれど、泥が詰まった胃袋を取り除くという裏技があるのだ。(後述)

綺麗に洗って胃袋を抜いたテナガエビに塩と小麦粉をまぶしてそのまま揚げるだけ。
揚げていると得も言われぬ香ばしいかおりが鼻をくすぐる。おなかがぐぅ。

この真っ赤な姿、誘っているとしか思えない

パクリと頭からかぶりつくと、あれ?この味、知っている?
エビのうま味が凝縮した・・・そう、あのお菓子、かっぱえびせんみたい!そしてかっぱえびせんより旨い。ビールビール。 テナガエビ釣りが人気なのは、釣るのが面白いからだけではないんだな。この味を知ってしまったらもう一度やりたくなってしまう。

「自分で釣ったんだ」という経験がスパイスとなり、忘れられない味になった。

お土産テナガエビを自分で調理する

たくさん釣れたテナガエビは、経験者のKさん、エビ男爵Yさんの分まで持って帰らせてもらえることになった。甘えさせてもらって、自宅で待つさのくに氏の元へ意気揚々と持って帰る。

家族を置いて釣りへ出かけるのは少々気が引けるのだが、美味しいお土産があれば罪悪感も薄れるというものだ。 しかも今回は生きているお土産だ!えっへん。この日のためにエアーポンプ買っておいてよかった。
早速エビに名前を付けて食べづらい気持ちにさせようとしてくるさのくに氏だったが、無意味だ。私の中では愛しいと食べたいは矛盾せずに同居可能である。食べちゃいたいくらい可愛いよ。

エビゾウ、エビタロウ、大事に食べるからね

Kさんに教わった胃袋の抜き方を実践してみる。
まず、利き手で竹串を持ち、反対の手でテナガエビの口がこちら側へ向くようにしっかり持つ。

自慢のはさみで攻撃してくることがあるので注意

小さな口に竹串の先を差し込み、ぐりッと上に向けて回転させる。

胃袋を探すような感じでグリグリと

引っかかりを感じたら胃袋を竹串の先に引っかけてそのまま口から出す。 慣れないと少し難しいけど、3匹もやればコツがつかめるはず。

大きな個体は砂袋も大きい

慣れてくれば1匹20秒くらいで処理できるようになる。 ここを取るとテナガエビはほぼ即死状態になるので苦しませずに済むと思う。

上手に取れるとこんな風にコロンと丸い胃袋が出てくる

調理法は悩んだけれど、やっぱりから揚げ。
あのかっぱえびせん風味をさのくに氏にも体験してもらいたかったのだ。
期待通り、「わ!かっぱえびせんだ!」の声が聞けて満足。

でもやっぱり、一緒に釣った仲間と食べたあの味には少し及ばない気がした。気のせいかしら。
初心者の我々に釣らせるために、下見をしたり、道具や仕掛け、餌まで使わせてくれたKさんには本当に感謝しかないです。ある程度有名な場所とはいえ、自分のポイントを人に教えるというのは釣り人にとってはとても大きなこと。

今回のKさんだけではなく、365日野草生活さんに野草の生えている場所を教わったり、別の方に地だこを釣らせてもらったり、船釣りに連れて行ってもらったり、潮干狩りに連れて行ってもらったりと、いろんな方に惜しげもなく知識や道具を与えて貰うことが多くなってきた。とてもありがたいことです。濃すぎてなかなか文章にできないのだけれど。

想像したり試行錯誤するのが好きなので、何事も調べすぎないようにしているのだが、殊に自然を相手にする活動の場合は、連れて行ってくださる方に迷惑をかけないためにもある程度知識は必要だなと感じてきている。

・自分や同行者、家族の命や健康に関わること
・その生き物や土地に関する法令
・環境、種を維持するのに必要なこと
・法に触れなくても他者の利益に大きく関係すること
・マナー

多分、今色んなことを教えてくださる方に直接すべての恩を返していくのは難しい(私よりずっと知識と経験があるから)ので、私がいつかこの楽しみを人に伝えていくことが恩返しの一環かな、と考えている。 その時にもずっとこの環境が保てるように、上記を含めた粋な楽しみ方を伝えられたらいいな。

なんつって、未だに糸も満足に結べないぺーぺーなんだけど。
そんなことを言ってたら、早速テナガエビ釣りを人に教える機会がやってきた。
次回、テナガエビ釣りーじぶんでできるもん編ー お楽しみに。

かっぱえびせんのマークみたいに揚がったテナガエビ

※2018/06/24追記 続き書きました。

www.michael-sepio.com