ぬかいわし、タレカツ、鶏の半身揚げ、そして笹団子。新潟を平らげる2泊3日

今回の旅の目的地は新潟。新潟には申し訳ないのだが、自発的に決めた目的地ではない。JR東日本の「どこかにビューーン!」という行き先ガチャサービスにより決定されたのだ。新潟といえば酒どころ米どころ。ちょうど新米の季節だ。どんとこい。古町エリアに宿を取った。

先に断っておくと、この旅の主題は飲食である。花街であった古町の美しい町並みなどにはほぼ触れない。のんべぇ、食いしん坊の記録である。

ともあれ、まずは飲酒

新潟に着いたらまずは行きたいところがあった。ぽんしゅ館である。駅直結の施設で、その中にある「利き酒番所」には90種類以上の地酒が並び、有料でおちょこ一杯ずつ試すことができるのだ。朝9時半からやっているので、我々は早速朝酒をきめることにした。

利き酒番所93。杉玉が頼もしい

90種類以上の地酒が用意されている

500円で5枚のコインを貰う。機械にコインを入れるとおちょこ一杯分の酒が出てくる仕組みだ。1杯に必要なコインは大体1枚、スペシャルな酒は2~3枚で飲める。

まずは鶴齢の純米吟醸。こいつはコイン2枚である。華やかで文句なしに美味しい。続いて、TVで見てから気になっていた鶴の友 別撰を一杯。御燗にしたい。それにしても朝飲む酒のうまさと言ったら。素晴らしい一日が始まる予感だ。その後は笹祝 きもと、牡蠣専用の酒(名前を失念)などを楽しみ、ほろ酔い状態で店を出た。

500円でコイン5枚を貰える

バスセンターにて「万代」のカレー、「寿屋」のおにぎり

さて、目指す古町は新潟駅からは徒歩30分くらいである。この日は生憎の天気で、関東では新幹線が止まるほどの大雨。晴れの日ならいざ知らず、この気候で30分歩くのはやや辛い。タクシーを拾うべきかバスに乗るべきか。思案していると、S氏が言う。「バスセンターというのがあります」 彼いわく、ここから古町に向かって15分ほど歩くとバスセンターがあり、そこのそば屋のカレーが有名なのだという。そこまで行ってカレーを食べたら残りもう半分を歩く気力が生まれるかもしれない。行ってみましょう、行ってみましょう。

駅付近の道路は舗装が甘いのか道が凸凹しており、キャリーケースがガラガラと大きな音を立てる。私は革のスニーカーを履いてきてしまったので、水没に注意しながら慎重に歩いた。

虹色のバスセンター

アーケードの下を忍者のように進んでいると、やがて屋根付きのロータリーが見えてきた。確かに奥に「万代そば」という看板が見える。昼飯にはずいぶん早い時間であったが、すでに長い行列ができていた。そして誰もが、そばではなくカレーを頼んでいる。

バスセンター内のそば屋

私は隣のおにぎり屋が気になってきたので、S氏だけがカレーを頼み、私は少し貰うことに。私はおにぎりに目がないのである。開放された立ち食いスペースでは、皆俯き気味に黙々とカレーを口に運んでいる。

そば屋のカレーらしく黄色い

やがて運ばれてきたのは、イメージ通り真っ黄色のカレー。そば屋のカレーと言えば黄色と決まっている。しかし食べてみて驚いた。いわゆる出汁の味ではないのだ。もっとまったりとした動物性の旨味である。これまたS氏によると、豚骨スープをベースにしているらしい。口へ放り込むと最初は甘く感じるのだが、後味は爽やかに辛く、後引くうまさ。大きく切られた玉ねぎが具のほとんどを占め、薄切り豚肉と人参の欠片がたまに顔を出す。宝探しみたいで楽しい。

満足したので、残りを食べているS氏を置いて隣のおにぎり屋「寿屋」へ。外観の写真を撮ろうと近づくと、店のあらゆる面にNO PHOTOの貼紙があった。苦労がうかがえる。鮭とすじこのおにぎりをひとつづつ、大判焼きを一つお願いした。

米粒が立っていたおにぎり

その辺のベンチに座って食べる。おにぎりは竹皮風の紙に包まれていた。冷たく、きつめに握られており想像と少し違ったが、とにかく米が旨い。そういう品種なのか、ミチミチとした食感で必然的によく噛むので具としっかり調和する。やや小ぶりで、カレーを腹に入れた後としてはちょうどよかった。たくあんがフィルムに包まれていて味が移らないのもよい。

対して大判焼きはほんわりと温かく、中の餡には栗まで入っていてお得な気分。包み紙も大変かわいらしい。この柄のハンカチなんて素敵ではないか。

栗入りなのが嬉しい

さるかに合戦をイメージしたような包み紙

隠し通路のある店「シャモニー」と「Patisserie N」

腹も落ち着いたところで再出発。バスセンターにいるのだからバスに乗るかと一瞬考えたが、どのバスに乗ればいいのかよくわからないし、あと15分ほどなので歩くことにした。雨風がより強くなっており、古町のホテルに着いたころにはすっかり体が冷えていた。

ホテルに荷物を置いたはいいが、まだチェックインできる時刻ではない。温まりながらこの後の作戦を練りたいところ。と、ホテルの目の前におあつらえ向きの喫茶店を発見した。

左がパティスリー、右が喫茶店

これはなかなか良さそうではないか。深入りのコーヒーのような色の建物はすべてが喫茶店なわけではなく、左は別の店、パティスリーのようだ。喫茶の方の扉を開け珈琲豆の棚を抜けると、思いのほか奥行きのある客席が現れた。暗めの1階席と一段高い席があったので、シャンデリアで明るく照らされた中2階の方に座る。

どでかいスピーカーからは生演奏かと聞き違えるような迫力でクラシックが流れていた。

「パラゴン」という音響設備らしい

座席には灰皿。ここは絶滅寸前の喫煙可の喫茶店のようだ。店内を観察していると、若者が注文を取りに来た。ほぼ無意識にピザトーストセットを頼む。

待っている間、奥の席の人が店員に何やら聞いているのに気づいた。「隣にはいつ行けばいいですか?」「お好きなときにどうぞ」 これは何の会話だろう。するとその人は荷物も持たずに店の出口の方へ向かっていくではないか。頭に疑問符を浮かべているうちにピザトーストが運ばれてきた。

ピザトーストはサラダ付き

トマトソースに薄切りの玉ねぎ、ピーマン、コーンが乗っている、クラシックなタイプ。ミミはさっくり、中はふわふわで理想的ピザトーストと言える。コーヒーは心地よい苦味。

食べているうちに先ほどの客が戻ってきた。皿に乗ったケーキと共に。隣とはパティスリーのことだったのか! 隣のケーキとこちらのコーヒーを一緒に楽しめる仕組みらしい。そうと分かればやるしかない。常連のみのサービスだったらどうしようとヒヤヒヤしながら店員に隣のケーキを食べたい旨を伝えると、どうぞいってらっしゃいとすんなり送り出された。一度外に出て、パティスリーに入りなおす。

ケーキを選び、隣の喫茶で食べたい旨を伝えると皿に載せて渡してくれた。その場でケーキの会計を済ませ、帰りはショーケースの横にある隠し扉で喫茶店に戻れるのだ(一方通行)。私の様子を見ていたS氏とバトンタッチ、彼はモンブランを手に帰ってきた。

私が選んだのは「幸せのポルコ」という子豚型のケーキ。ベリーとピスタチオのムースをベリーのチョコレートでコーティングしてあり、大変好みの味だった。フォークを突き刺して食べるのが少し憚られるが。

紅の豚のポルコ・ロッソから名付けたのだろうか

十分温まったところで次の行き先を水族館に設定し、店を後にした。

懐かしのピンク電話

勘でバスに乗る、マリンピア日本海

未だやまぬ雨の中、先ほどS氏が調べてくれたバスの停留所へ向かう。バスを待っていると道路の向かいに「笹団子」の文字。夕方までやっているか分からないが、水族館から戻ったら寄って見ようとメモしておいた。それにしてもバスが来ない。バス停は合っているはずなのだが、標識を見ても該当するバスがなくて参ってしまった。

するとS氏が「これに乗ろう」と目の前に着いたばかりのバスに乗り込んでいく。なぜ?? 水族館に行きそうもない路線バスである。ええいままよ、最悪どこかで降りて歩けばよかろう。Googleマップに張り付きで現在位置を確認していく。

「次は~古町~古町~」 噂には聞いていたが、「ふるまち」のイントネーションは「おにぎり」ではなく「たましい」と同じである。なんだか不思議な感じだ。乗ったバスはやはり間違っていて、水族館から遠ざかりそうになった地点で慌てて降りた。結局そこから20分ほど、だんだん強くなる雨風に立ち向かいながら住宅街を歩き、着いたときには魂が抜けたようになっていた。雨でも濡れずに楽しめそうだから水族館に来たのに、来るまでにびっしょりである。

水族館のことは書くときりがないので割愛する。ずっと動かないカミナリイカとしばらくにらめっこしていた。

動かないカミナリイカ

チグサミズヒキ。2cmくらいしかない

ハート形のコトクラゲ

確かに多足ダコっぽいタコヒトデ

帰りは無事にホテル近くまで行くバスに乗ることができた。行きにメモした笹団子屋「角田屋」へ。しかし覗いてみると笹団子は売り切れ!

証券会社と証券会社の間に挟まれていた

夕方だから覚悟はしていたものの、悔しい。朝7時に開店して昼前にはもう売り切れたそうだ。取置きができるそうなので、明後日受け取りでこしあん、粒あんを3つずつ取り置いてもらうことに。代わりに草団子などを買ってホテルへ帰った。

照りのあるあんこがたっぷりの草餅

「酒亭 久本」ぬかいわしの刺身で呑む

ホテルで腹を休めた後、予め予約しておいた店へ。板前さんが「お好きな席へ」と言いかけて「もしかして、太田さんですか?」と聞いてくる。太田というのは我々の苗字ではない。太田和彦という居酒屋探訪家がおり、その人が出ているTV番組を見てきたのですか?という意味である。それではここへ、と通された席はまさに太田和彦が座っていたカウンターであった。

TVを見て来たなんてミーハーな感じがして気恥ずかしいが、本当のことなので仕方がない。開店と同時に入ったため客は我々のみ。酒の品書きはないのでお勧めを聞くと、麒麟山の伝辛がありますとのこと。燗でもらうことにした。肴の品書きも文字だけなので想像が膨らむ。刺し盛りと共に、一番食べたいと思っていた「ぬかいわしの刺身」というのを頼んでみる。

鰹のたたき、釣りアジ、南蛮海老、マハタの刺し盛り。南蛮海老は出色の旨さ

ぬかいわしとは北陸地方の伝統食で、その名の通りイワシを糠にじっくりと漬けたものである。焼いて食べるのは想像できるが、刺身とな。焼いたのも刺身もどちらも気になるなと思っていたら、それを察したのか「刺身と焼き、半々にしましょうか」と気を利かせてくれた。

一合目が空になるころ、ぬかいわしの刺身と焼き物が運ばれてきた。慌てて次の酒、鶴の友を頼もうとすると、「普通の純米の方と別撰とありますがどうしましょう。おすすめは純米です」とのことなので、そちらを燗でお願いした。

ぬかいわしの刺身

酢橘を絞り、恐る恐る刺身の方を口に入れてみる。嫌な臭みは一切なく、ぬかとイワシの風味が広がる。噛みしめるとギューっと濃いイワシ味。これはこれは。酒の到着を待たずにつまみ食いをしたのを後悔した。

ぬかいわしの焼き物

おとなしく酒が来てから焼き物へ。ウズウズする香ばしい香りに吸い寄せられてパクリ。じわっと脂が染み出て、こちらは酒でも米でも行けそうだ。純米酒のずっしりとした米の旨味に実に合う。これは堪らん。思わず顔がほころんで、S氏と顔を見合わせた。

最初のお客だからと、サービスしてくれた南蛮海老の卵の塩漬け

続いて朝日山を頼みつつ、「かきのもと」というものと塩いかの天ぷらをお願いした。「かきのもとは生醤油、出汁醤油、ポン酢があります。女将のおすすめは生醤油にからし」とのことだったが、からしが苦手な私は出汁醤油にした。「かきのもと」とは食用菊のことで、これもやはり新潟の郷土食。是非食べてみたいと思っていたので出会えて嬉しい。

かきのもと

出汁醤油にくったり浸かったかきのもとを口に入れる。鮮やかな紫色の菊の花はフラワー!という感じの香りを想像していたのだが、そんなことはなく、しゃくしゃくとした歯触りで後口爽やか、酒やほかの料理を邪魔しない控えめな食べ物であった。先ほどから口内をねっとりと支配していたぬかいわしをリセットしてくれる。

塩いかの天ぷら

天ぷらをつついていると、しゃんと着物を着こなした女将が現れた。女将は現役の芸者である。酔ってくにゃくにゃになっていたところ、自然と背筋が伸びた。いつの間にかカウンターは客で賑わっている。女将は常連と思われる2人組の相手をしながら、チラリとこちらを見て「おつまみ小肌!おつまみ小肌は絶品」と話しかけてくれた。「飲むときはお腹いっぱいになりたくないものね。ちょうどいいよ。最後はおにぎりね」

そういわれたら頼まねばなるまい。おつまみ小肌、いか肝の味噌漬けと鶴の友別撰をお願いした。女将の言う通り、お腹いっぱいにならない程度に飲るのが粋だとは思うのだが、ついつい頼みすぎてしまう。

おつまみ小肌

やがて運ばれてきたおつまみ小肌は想像とは違う見た目だった。細切りにした酢〆の小肌と沢庵、大葉にぱらりとゴマが振ってある。小肌が好物のS氏は大喜びである。自家製だという沢庵の食感と染み出る小肌の旨味。さっぱりして、確かに腹が膨れなくてよい。

いか肝の味噌漬け

それとは対照的にいか肝は濃厚な味わいだ。板前さん曰く、塩で水を抜いてから味噌と酒で作った漬け床に一ヶ月以上漬けているのだという。肝を乗せる大根を鶴の形にスイスイ切っていくのは格好よかった。多分ここで終わっておけば綺麗だったのだろう。しかしあちらこちらの客から聞こえてきた「蟹」という声を我々は聞き逃さなかった。

逡巡の後、香箱ガニを頼んでいる自分がいた。ちょうど季節じゃないか。酒も足らなくなったので、今度は北雪を。ついでに謎の食べ物「赤ひげの塩辛」もお願いした。値段を書いていない店なので、勘定がどうなっているか分からない。もうなんとでもなれ。二度と来られないかもしれない店を満喫したい。

香箱かに

やがて美しく詰められた蟹がやってきた。神々しい。問答無用の旨さである。チマチマと口に入れ、酒を含んで口いっぱいに幸せを広げる。

赤ひげの塩辛

赤ひげの塩辛も忘れずに。赤ひげとはオキアミのことだと板前さんが教えてくれた。大根に乗せて食べればしょりしょりした食感とほんのりの甘み、塩っ辛さが酒に合う。最後の酒を流し込み、お勘定、と思いきや忘れちゃいけない〆のおにぎり。私はすじこを、S氏はたらこをひとつずつお願いした。

すじこのおにぎり

ふわっと握られた温かい米にピンと張った海苔、輝くすじこが愛おしい。これぞ私が求めたおにぎり。自家製の漬物も抜かりなく旨い。

最後は女将と記念写真も撮ってもらい、大満足でお勘定。女将にちょっと心配される金額であったが、覚悟を決めてきたので問題はなかった。驚くべきことにこれだけ食べても腹がいっぱいにならず、一瞬ラーメンが頭をよぎったが、それが蛇足であると判断できる程度の理性は残っていた。もっと年を重ねれば、もっとキレイに飲めるようになるだろうか。

笹団子屋巡り・鮭まんじゅう

早く寝たので、2日目は爽やかな目覚めとなった。S氏が何やらそわそわとしている。「ここの東横INNはね、朝ごはんがおにぎりなんだよ」 東横INNマスターであるS氏によると、この店舗では東横INNの一般的なごはん+おかずスタイルではなく、おにぎり+スープに注力した朝食を提供しているらしい。

変わり種があるのも嬉しい

朝食会場へ降りてみると、たくさんのおにぎり達が食べて欲しそうにこちらを見ているではないか。おにぎり好きな私は歓喜した。魚沼産こしひかりを使っているばかりでなく、ほんのり温かく具がやたら大きい。3つも平らげ、嬉しい朝食となった。

外へ出ると昨日の天気が嘘のような快晴。日傘が必要なほどである。商店街をあてどなく歩いていると、昨日とは別の笹団子屋を見つけた。「田中屋本店」とある。昨日の「角田屋」といい、笹団子屋は早朝から店を開けるものなのだろうか。それとも和菓子屋全般か?

角田屋で取り置きをしておいたものの、こちらの味も気になる。こしあんと粒あんを買ってベンチで食べてみた。ザ・笹団子である。包みたてだからか笹は全体的にしっとりして餅の伸びもよい。S氏がコンビニに走り、ほうじ茶を買ってきてくれた。

田中屋本店の笹団子

笹団子の食べ比べというのも面白いかもしれない。S氏の調べによると、15分ほど歩いたところに老舗の笹団子屋があるらしい。早くもクリスマスソングが流れる商店街を歩いて向かう。

腕が8本しかないイカ

偽物の川を泳ぐ偽物の鯉

たどり着いた笹団子屋「笹川餅屋」は大変に年季の入った店であった。明治からやっているらしい。期待に胸膨らませ店に近づくと、「笹団子売り切れ」の文字。またしてもか。まだ朝だぞ。

笹川餅屋

代わりに他の甘味を買っていこうとしたが、そもそも店頭に人がいない。そっと奥を覗いてみると、店員さんが電話応対していた。漏れ聞こえてくる話によると、どうやらかなりお年を召した方が熱海から大量の取り寄せをしようとしているようだ。15分ほど待っていると「すみません、今日私ひとりなもので」と申し訳なさそうに店員さんが出てきた。

待つ間に選んでおいた、豆大福と鮭まんじゅうを頼む。豆大福は新米を使っているらしい。店前の長椅子で食べさせてもらった。

豆大福と鮭まんじゅう

鮭まんじゅうは肉まんの鮭版

豆大福は良い塩のきき具合。鮭まんじゅうは見たことがないので頼んでみたが、食べてみると肉まんの鮭版と言う感じだ。玉ねぎやシイタケが一緒に入っていてしっとりと旨い。鮭まんじゅうの起源が気になったが、忙しそうだったので聞くのはやめておいた。代わりに取り置きができるのかを聞いてみたところ、当日の朝に電話する形なら取り置けるとのこと。では明朝電話しよう。

新潟名物タレカツ丼発祥の店「とんかつ太郎」

昼は予め決めていたタレカツ丼の店へ。卵でとじない系のカツ丼は日本各地にあるが、新潟のタレカツは桐生のソースカツ丼や福井のソースカツ丼にビジュアルが似ているらしい。このタイプのカツ丼は好みなので期待が持てる。

恐らく人気の店なのではないかと踏み、開店30分前に着くと早くも3人の行列。15分もすると長蛇の列となった。S氏は並ぶような店ではないはず、などと宣っていたが大人気ではないか。いつもS氏にばかり旅のあれこれを任せて申し訳ないと思っているが、こういったところが甘いので私の出番もあるというものである。

®️が付いている看板は初めて見た。何かあったのかな

旨そうな香りが漂ってきて、まもなく開店となった。通されたのは、調理の様子が見える特等席。

注文してから揚げるスタイルのようだ。調理場奥には右に油で満ちた揚げ物鍋、左にタレの鍋。どちらも巨大である。手前にはやはり巨大な炊飯器が鎮座している。

店主らしき男性が20枚ほどのカツを一気に油に入れ、揚がったら左手に構えたバットに乗せて油を切る。その間に女性が丼に飯をよそい、タレをかけておく。油が切れたカツから順にタレに浸して、飯の上にドンドンドンと重ねてゆく。

カツが積み重なって米が見えない

我々のターンが来て、カウンターからドン、と丼を差し出された。薄めとはいえ5枚もカツが乗っている様は圧巻だ。揚げたての熱々のカツを頬張ると、じゅわりとタレと肉汁が滲み出てくる。そして同時にかき込む米の旨さよ。つやつやと輝いている。カツと米とタレ。このシンプルな組み合わせで完成されている。

肉はヒレのように柔らかいが、実際にはモモ肉を叩いているらしい。タレはベースの醤油の中にどこか洋の雰囲気。品のある濃さのタレが後を引く。夢中で食べ進めるとどんぶりの底には「太郎」の文字。特注に違いない。オリジナルのどんぶりをこさえている店は旨いに決まっているのだ。

どんぶりの底に太郎の文字

新潟米の陣

とにかく腹がいっぱいで、何も考えられない。朝から米と甘味を食い過ぎた。とりあえず万代橋まで歩いて向かう。昨日、あの辺りは晴れたら散歩にいいだろうなと思っていたのだ。そこかしこに立派な柳が植わっていた。その様子から新潟市街のことを「柳都(りゅうと)」と呼ぶのだそうだ。バスの路線名や橋の名前に「りゅうと」「RYUTO」という表記があったので何のことだろうと思っていたら、その辺で買ったおかきの袋の裏側にそのように書いてあった。

まさに柳都

滔々と流れる信濃川を眺めながら万代橋を渡る。河口の方に朱鷺メッセという超高層建造物が見えてきたので、そこを目指して歩いてみた。

秋晴れに紅葉。散歩にうってつけ

朱鷺メッセの入り口を探していると、道路の向こう側に見逃せない文言を発見してしまった。

新米食べ放題とな。「こんなもの行くしかないだろう」と心は言うのだが、先ほどタレカツ丼をたっぷり吸いこんだ腹の方は「無茶はやめておけ」と言う。結局、「新米」「食べ放題」の文言に頭が完全に支配され、既にずっしりと米の詰まった腹を抱えて会場へ吸い込まれた。

この誘惑に抗える人はいるのだろうか

入口で300円払い、リストバンドを巻くと米が食べ放題になるらしい。入場だけは無料だが、米代はかかるということか。300円分の米を食べきれるのかを考えるのはやめ「食べ放題」という心躍る体験に集中することにした。「米コーナー」という暖簾がかかったテントで新米をよそってもらう。「軽めでお願いします」と言うとしゃもじを持ったお姉さんは怪訝な面持ちをしていた。そうだよな。食べ放題に来て軽めというのは意味わからんだろう。S 氏は有無を言わさず大盛りにされていた。

焼き鮭の出し漬け、イカの塩辛

米以外のエリアにはおかずブースがたくさん並んでおり、そこから好きなものを購入して米と合わせられるようになっている。骨抜き鮭とイカの塩辛をチョイス。鮭は冷たく、塩辛も求めていた味とは違ったが、米は間違いなく旨い。米どころの矜持を感じる。

ふと近くに座っていた家族が目に入った。中学生、高校生くらいの男児2人と両親。なんと手持ちののりたまを振りかけて食べているではないか。その手があったか! 確かに持ち込みは禁止されていない。割高のおかずをこの場で買うより賢い。男児の食べっぷりを見ているだけで腹いっぱいになったので私はここで箸を置いたが、S 氏は苦しいと言いながらおかわりを貰いに行っていた。

佐渡へようこそ

流石に限界である。もう何も入らない。よたよたと朱鷺メッセへ入場し、ガラス張りのエレベーターでBefcoばかうけ展望室へ。変わった名前だ。Befcoが命名権を買ったのだろう。20年くらい前に「東京スタジアム」が「味の素スタジアム」になったときは違和感バリバリだったが、すっかりネーミングライツという概念も日本に馴染んだよな。

ガラス越しに新潟の街や信濃川の河口を眺めるが、満腹すぎて何も感じることができない。新潟の街は他人の顔をしている。そもそも展望台というものにそんなに興味がなかったりする。さっきの新米食べ放題は完全に蛇足だったなと思いながら視線は彷徨うばかり。

左奥にうっすら見えるのが佐渡、のはず

手前の方に佐渡汽船のターミナルを見つけた。知らない町でたまたま友人に出会ったような気持ちだ。昨年一度乗っただけ、しかもこの港でもないのに、佐渡汽船からしたら厚かましい友人である。どうやらここからターミナルまでシームレスに繋がっているようなので、行ってみることにした。

佐渡汽船ターミナル

昨年の佐渡旅行は本当に素晴らしく、心の隅々まで刺激された旅だったが、それゆえに未だに記せていない。渡り廊下を歩いていると、気の早い看板が出てきた。本当にこれくらい気軽に行けたらいいなと思いつつ、長い船旅を経てたどり着くところにロマンがあるのかもしれないとも思う。

これくらい簡単に佐渡に行けたらな

ターミナルのフードコートでは佐渡牛乳を使ったソフトクリームを売っていたので、即食券を買った。腹は一杯だが、ソフトクリームは実質液体だから大丈夫。

濃厚過ぎないミルクの香りが爽やかで好ましい。そうだ。佐渡で連れて行ってもらったソフトクリーム店と同じ味だ! 佐渡牛乳を作っている佐渡乳業直営の店だったはずなので間違いない。佐渡へ行きたい気持ちが募る。

みんな大好き佐渡牛乳

揚げより蒸し!半身揚げの店「鳥やす」

腹が限界の向こう側へ行ってしまったので、ホテルに戻り昼寝。目覚めるとすっかり日が落ちていた。晩酌ができるくらいには消化が進んだので、目星をつけていた「鳥やす」へ電話したところ、お客さんがいつ帰るか分からないので30分くらいしてからもう一度電話するようにとのこと。ごろりと寝転がり、引き続き消化に神経を集中した。

これから行こうとしているのは鶏の半身揚げを出す店である。半身揚げとは60年ほど前に「せきとり」という店が初めに出したもので、半分に割った鶏にカレー粉をまぶして揚げるという料理だ。今ではすっかり新潟のご当地グルメとして浸透している。発祥の店である「せきとり」に行こうかとも思ったのだが、ここはちょっとひねくれて別の店を選んでみたのだ。

S氏が再度電話したところ「何とか入れそう」と言われたので出発。真っ暗な古町を歩いていると、もわーっと光る店が見えてきた。初見ではまず入らないであろう見た目に尻込みしつつもガラリとガラス戸を開ける。

蛍光灯で照らされた明るい店内。壁に貼られたポスターやメニュー、ちょこちょこと置かれた小物などが安心感をもたらしてくれる。本来4人掛けであろうテーブル2卓にはそれぞれ若者が6人くらいずつ詰め込まれていたが、皆顔を紅潮させて実に楽しそうだ。カウンターには一人客たちがそれぞれの体勢で天井近くのTVで野球を観戦している。「こんなところでごめんなさいね」と通されたのはカウンターの一番端で、1.5人分程度の幅。「何とか入れそう」という意味を理解した。

ビールは瓶派

とりあえず瓶ビールを貰い、あちこちに点在するメニューを眺めていると女将さんらしき人が説明してくれた。「うちはね、まず半身揚げ。蒸しもあります。あとは串。ここに書いてあるだけ」とのこと。声色がとっても優しい。こういう店に一見で入り冷たくされた経験があるので少し構えていたが、歓迎されているようで安心した。折角だから半身の揚げと蒸し両方、砂肝串を頼む。注文は紙に書いて手渡しするスタイルだ。

独特の絵心

まもなく、カウンターから鳥を割くギッギッという音が聞こえてきた。少し背伸びをしてみると、店主らしき男性が手際よく鳥を捌いている。塩、胡椒、カレー粉を順番にまぶし、大量の鶏肉を片手にわっさと乗せて奥へ持っていく。その間にもあちこちから注文が入り、女将はカウンターを出たり入ったり忙しそうだ。常連らしき人は、自分で自分の瓶ビールを冷蔵庫から出して持って行く。昔アルバイトをしていた焼き鳥屋を思い出し、なんとも懐かしい気分になった。

しばらくして一口サイズのカレーが出てきた。お通しのようだ。細かく刻まれた野菜が子どもカレーっぽくてなぜか嬉しい。

お通しのひとくちカレー

TVではベイスターズとソフトバンクが試合をしているようで、わーっと歓声が上がる度に目を遣るがなんだかよくわからない。

砂肝揚げはサクサク旨い

2本目のビールを頼んだころ、本命の鶏の半身がカウンターから差し出された。揚げと蒸し合わせて鶏丸ごと一匹がカウンターに乗っていることになる。今の腹具合からするとちょっと心配なボリュームだが、食いしん坊のS氏もいることだし大丈夫だろう。

鶏半身揚げ

まずは揚げだ。S氏は胸肉が好きなので私は腰らしき部分をいただく。口に入れる前からカレーの風味がふわりと香り、食べきれるか心配していたのが嘘のように食欲が湧いてきた。ガブリと嚙みつくとじゅわっと肉汁が溢れだしたので、一滴もこぼすまいと思わず啜る。これは旨い。あっという間に骨になってしまった。

鶏半身蒸し

続いて蒸し。ドラムスティックを食べてみる。ほおばった瞬間、じゅわわわわ~と肉汁の洪水が発生。揚げと比較にならないほどのジューシーさである。カレーの風味が蒸す間に落ちてしまうのではと思いきや、塩気と共にしっかり残っていた。正直言うと揚げの方が目玉なのだろうと思っていたのだが、私は断然こちらが好みだ。皮のぷるぷるした食感も良い。両方頼んでおいてよかった。

後から知った話だが、引退した初代のご主人は「せきとり」で板前として働いていたそうで、この「蒸し」も一緒に開発したという話だ。良い店を選んだ。

2人で鶏一羽をすっかり平らげてしまった。腹具合的にも深追いせずにこれで退散するのがよいだろう。優しい女将に見送られ、真っ暗な住宅街をほろ酔いで帰った。

なぜか亀がいた

笹団子食べ比べ

さてさて3日目の朝である。この日も素晴らしい快晴。昨日売り切れていた笹川餅店に電話し、笹団子を取り置いてもらう。今日は1日目に取り置きをお願いした角田屋の笹団子と、笹川餅店の笹団子の食べ比べができる。

まずはホテルから近い角田屋へ。「取り置きの……」と言いかけると顔を見てすぐに気づいてくれた。笹団子を包む間に「角餅」という文字を見つけ、これって焼いて食べるんだろうか、それともこのまま食べられるんだろうかと会話していると、一切れ分けてくれた。貰った餅は柔らかかった。そのまま食べるものだそう。齧るとみょーんと伸びて、ほのかな塩気で美味しかった。

やわらかい餅。豆入り

角田屋の笹団子

1日目と同じ商店街のベンチで笹団子を広げる。どんな味がするだろう。期待が膨らむ。やや湿った笹をめくって、団子を食む。はて。昨日食べた田中屋本店の笹団子との違いが分からない。ほんのり笹の風味が移った餅に、滑らかな餡。とっても美味しいけれど、差が分からないのだ。S氏なら、と思って感想を求めたが同様であった。強いて言えば田中屋の方が団子がやや柔らかいぶん、笹離れ(そんな言葉はない)が悪かったのと、角田屋の方が笹の香りが強かった。こうなると笹川餅店がより一層気になってくる。

昨日とは違う道を選び、笹川餅店へ向かってアーケードを進む。

カステラ屋 はり糸。買って帰った。ふわふわ

道端で見つけた謎の碑

辿り着いた笹川餅店では、やはり笹団子は売り切れ。取り置きしておいてよかった! 笹川餅店は、笹団子が新潟の代表的な土産品の地位に上るのに一役買った店なのだ、というのはS氏情報。何でも今の店主のおじいさんが土産屋協会の理事で、当時各家庭で作られていた笹団子を土産品にしてはどうかと推薦したらしい。

そんな店なら他と何か違うはずだと、先ほどの味の記憶が薄れないうちに店の前の長椅子で、渡された笹団子を広げる。

やはり売り切れ。でも取り置きしたもんね
笹川餅屋の笹団子

うーむ。先ほどよりは少しわかりやすい違いがあったが、わずかなものである。田中屋と角田屋よりやや餅が厚くて固め。固さに関しては単に作ってからの時間かもしれない。並べて同時に食べれば差が分かるのであろうか。皆、ひいきの店をどうやって決めているのだろう。

ピアBandai「弁慶」、イカとの邂逅

結局笹団子の差はよく分からないまま、新潟最後の食事処へ向かう。目指すはピアBandai。信濃川河口にある施設で、新潟特産の米や酒、魚、肉、野菜、土産品などなんでも揃うマルシェ的な場所らしい。そこにある回転寿司屋「弁慶」に行ってみたいというのが、S氏の要望だ。旅の間はなるたけ徒歩で移動するのが好きなのだが、疲れが溜まっていたのでタクシーに乗った。徒歩30分の距離があっという間だ。

回転寿司 佐渡弁慶

活気のあるマルシェを通り抜け、まずは目的の「弁慶」へ。大変な人気店のようで、整理券をもらうための列ができていた。整理券を取ると、待ち時間が分かる。現時刻は11時。約90分待ちとのことなので、ちょうど昼時に順番が来るはずだ。それまでにマルシェを見て回ることにした。

野菜エリア、肉エリア、魚エリアとそれぞれ建物が分かれており、どこも人でごった返している。「かきのもと」や「ぬかいわし」など旅の間に食べてきた食材を見つけると嬉しい。特に興味のある魚エリアをもう一度周ってみると、新たな出会いが……!

生食用とかあるんだ

スルメイカのトンビ(口)と頭軟骨である。この部位が生食用で売られているのは初めて見た。胸が高鳴る。トンビも頭軟骨も日ごろのイカ解剖で見慣れているのだが、普段はじっくりと常温で解剖するので、生食という発想がなかった。自宅だとトンビは焼き物に、頭軟骨は唐揚げにしてしまう。見たところ解凍品でもなさそうだし、ピカピカと輝いて旨そうだ。ご丁寧に肝醤油までついているし、今すぐ食べられそう。

麒麟山と共にスルメイカの軟骨と口球

売り切れる気配は全くないのだが、なぜか焦って購入。急く気を抑えながら、これを水で食べるのは違うだろうと酒エリアで麒麟山の小瓶を買ってきて合わせることにした。テラスに陣取り、いざ実食。

初めて生で食べる部位なのでやや緊張する。トンビについては下処理しないとぬめりがすごいことを知っているし、頭軟骨の中の脳は鮮度が落ちると臭みが出る。果たして、これはどうか。まずはトンビから。ぬめりがほとんどない! しっかりした処理がなされているのだろう。そして、さすが小魚の脊椎を食いちぎるだけある力強い筋肉に旨味が凝縮されている。ここで一口、酒を入れ、トンビとの出会いを祝福する。至福。続いて頭軟骨。臭みなど全くなく、ゴリゴリッと気持ちの良い歯ごたえだ。脳のコクのようなものが肝醤油と合わさって酒が進む、進む。

平衡胞と平衡石発見!

これは大正解だ。しつこく魚エリアを徘徊していてよかった。こういう出会いがあるから旅先の市場が大好きなのだ。

更に私のようなイカマニアの場合には味以外にも楽しめる。例えば、イカの頭には平衡胞という平衡石(耳石)が入っている小さな部屋がある。この頭軟骨はちょうどその部屋がよく見える場所で切断されており、ものによっては中の平衡石まで見つけることができた。嬉しい。できることなら持ち帰りたい。

歯舌も発見

トンビの方はというと、食用とならない上顎板と下顎板は取り除かれているものの、食感にあまり影響しない歯舌(餌をすりおろすためのおろし金のようなもの)は取り残されており、ひっぱりだして観察することができる。S氏はそんな私の様子を冷ややかに眺めながらコーヒーを飲んでいた。

そうこうしているうちに、「弁慶」の我々の順番がやってきた。いざ、新潟最後の食事。

ちゃんと回っている回転寿司

入店すると、そこは寿司パラダイスだった。寿司屋なのだから当たり前だろうと思われそうだが、違うのだ。店内にぐるりと張り巡らされたレーンには、瑞々しい寿司がぎっちりと並べられ、客たちは嬉しそうに迷いながら皿を手に取る。中央では三人の職人が絶え間なく寿司を握っており、レーンの隙間を次々と埋めていく。たまに上がる客からの注文の声と職人の威勢の良い返事が場に活気をもたらしている。次は何が流れてくるか、皆目を輝かせて待ち構えている。

美しきアジ

そう、回転寿司はこうでなくっちゃ。最近は回らない回転寿司も多く、注文もタッチパネルの店が多くなった。もちろん便利だしフードロスも少ないのだろうが、たまにはこういう回転寿司屋にも行きたい。

佐渡のブリ。うますぎてS氏は2皿食べていた

本店が佐渡にあるとのことで、佐渡産のネタも多かった。佐渡で連れて行ってもらった回転寿司も美味しかったな。募る佐渡への思い。

とろけるノドグロ。反則の旨さ

結局S氏8皿、私は12皿とたっぷり地魚を楽しんだ。大満足だ。

次はどこへ行こうかな

さようなら新潟

これにて、新潟の食い倒れ旅は終了した。本当によく飲み食いした旅であった。牛のように胃が4つくらいあればいいのに(あれはそれぞれ役目が違うのだというのは置いておいて)。しかしこれだけやっておいて、まだ新潟で食べたいもの、行きたい店がある。次は長く休みを取って、佐渡まで足をのばすのもいいな。また来るね、新潟。

「久本」で飲んだ鶴の友をお土産にした

赤いかを求めて静岡下田旅

※はてなブログ×codoc連携サービスのプロモーションのため、はてなからの依頼を受けて投稿しています

下田赤いかキャンペーン

五月の終わり、夫から一枚の画像が送られてきた。

下田で赤いかキャンペーンというのをやっているらしい。ここで言うところの赤いかとは、ケンサキイカのことである。確かにケンサキイカは夏のイカだけれども、下田が赤いかで有名だなんてまったく知らなかった。下田といえば金目鯛じゃないのか。

赤いかキャンペーン | 伊豆下田観光ガイド

キャンペーン概要によると特に出し物があるわけではなく、赤いかを出す飲食店や宿をMAPにまとめたので各自楽しんでくださいという感じのようだ。検索してもあまり情報がない。なんとなくテンションの低さを感じるが、行ってみることにした。

曇天の下田

熱海で伊豆急下田腺へ乗り換える。実は伊東より先へ行ったことはなく、下田も初めてである。車内から海を見たいと思っていたが、梅雨らしい天気で海も空も灰色だ。

赤いかキャンペーンの広告を見つけて少し気分を持ち直す

わざわざ海側の座席に座ったのに、早起きと日ごろの疲れで私も夫もほとんどの時間眠ってしまった。下田は終点なので寝過ごすこともないし安心だ。

なぜか斜めになっている路線図。標高を表しているのかと思ったが違うようだ

終点独特の空気に起こされて電車を降りると、改札の方が騒がしい。駅員の方なのか、降りてくる乗客にチラシを配ってやさしく歓迎してくれている。そしてその中にイカの被り物をしている人が!

笑顔が素敵なお姉さん

撮影をさせてもらいつつ、赤いかキャンペーンのために下田に来たんですよと前のめりで声をかけたが、なんとなく流された。駅はあじさい祭りののぼりでいっぱいである。やっぱり赤いかキャンペーンは盛り上がっていないのか。

じわじわと赤いかの気配

駅前の探検はそこそこにして、予約した料理店へ向かう。30分ほど歩いたが、赤いかキャンペーンののぼりもポスターも何もない。どこもかしこもあじさい祭り一色である。

昼食は夫がここぞ、という老舗磯料理店を選んでくれていた(この旅行は私の誕生日祝いを兼ねているので、全体的に飲食物が豪華)。

磯料理 辻。店内に大きな生け簀がある

テーブルに着くなりウェルカム塩辛がサーブされ興奮したが、多分赤いかではない。塩辛はスルメイカのように肝が豊かなイカだから作れるのであって、赤いかの控えめな肝では難しい。色も、赤いかの肝はもっと黄みがかっている。しかし、肝だけはスルメイカで身はヤリイカやアオリイカを使うという珍しいパターンを以前食べたことがある。念のため聞いてみたが「真いか(スルメイカ)ですね」とのこと。やっぱりね。でもイカなら何でも嬉しい。

ウェルカム塩辛(真いか)

お祝いだからと奮発したコースは、竜宮城の乙姫様もびっくりのご馳走であった。

豪勢な姿造り。ちょっと罪悪感(資源量的に)

三島由紀夫も愛したという伊勢海老の鬼殻焼きは唯一無二の味

鬼殻焼き提供前には生け簀から上げたばかりの伊勢海老を見せてもらえるのだが、その後店員さんが厨房へ「海老確認済みで~す!」と元気よく伝えるのが面白かった。

伊勢海老ならぬ見せ海老

昼間から酒を飲みすっかりいい気分であるが、ちょっとそわそわ。赤いかとの対面がまだである。コースに赤いかは含まれないことはわかっていたので、当日の黒板メニューに賭けていた。

そして……

赤いか下足唐揚げ

賭けに勝った! 下田に着いて初めての赤いかである。やったー! 赤いかは火を通しても柔らかい。薄めの味付けで甘みが引き立って美味しい。

これでなんとか赤いかミッションクリアだと喜んでいたら、次に出てきたコースのもずく酢に赤いかが乗っていて力が抜けた。

揚げ物の後の酢の物は嬉しいよね

下田海中水族館で赤いかを探す

満腹の腹をさすりながら海沿いを歩いていると、次の目的地が見えてきた。

海に浮かんでいるのは……

一度来てみたかった海中水族館

入場するなり、カメラを持った職員さんが問答無用で記念写真を撮ってくれた。帰りに出口で現像したものを確認して、気に入れば購入できるというアレだ。絶滅危惧サービスを久しぶりに味わって懐かしい気持ちになった。

まったく期待はしていなかったが、やはり赤いか(ケンサキイカ)はおらず。ケンサキイカの飼育は難しいと聞く。もし飼育展示をしていたらイカ界隈でちょっとしたニュースになっているはずだ。

餌のスルメイカの写真でお茶を濁す

イカはいなくても展示は充実。アシカとイルカのショーをたっぷり楽しんで後にした。結局入り口で撮ってもらった写真は買わなかった。ごめんね。

かわいいゾウリエビ。和名だと「ゾウリ」だけど英名だと「ミトン」なのね

あじさい祭り

あじさい祭りをやっている下田公園がすぐそこだったので、覗いてみることにした。

たまたまだが、進めば進むほどあじさい密度が濃くなるルートを進んだので、後半にかけてうまいこと気分も盛り上がり、しばらく赤いかのことを忘れていたほどだ。

あじさいは曇天が似合う

あじさいで十分に目を潤したあとはペリーロードをぶらつき、夜の予定に備えた。

立派ななまこ壁の旅館

宝石のような夜

旅の夜の楽しみと言えば、季節の地物を出してくれる居酒屋である。以前に居酒屋を紹介する番組で見かけて気になっていたところを予約しておいたのだが、これがなんとも不思議な出会いだった。

店は宿のある街の中心から離れた住宅街にある。強面な感じのご主人と、割烹着の女将さんがカウンターの中から出迎えてくれた。

枝豆とうふ、真竹のきんぴら(粉節煮)、中華くらげ。すべて自家製

瓶ビールとお通しをつまみながら東京から赤いかを食べに来たことを伝えると、「ちょうどお客さんからおすそ分けがあったから」と赤いかの船上干しを出してくれた。

赤いかの船上干し。肉厚でめちゃくちゃうまかった

お客さんが島(多分伊豆諸島)まで行って釣って干したものだという。赤いかの船上干しなんて初めて見ましたというと、ちょうどよかったとご主人も笑顔を見せてくれた。あとから気付いたが、島から来た赤いかだから、あしらいが明日葉だったのか。

品書きにあった「じんた鯵の南蛮漬け」を頼もうとしたら、残念ながら今日はないという。そもそも「じんた鯵」ってなんだろうと首をかしげていると同じカウンターで飲んでいた3人組のお客さんが教えてくれた。豆鯵のことらしい。「小さいから面倒だけど、一つずつ指で開いて揚げると美味しいの。昔はこの辺でいくらでも釣れたのにね。全然いなくなっちゃった」と寂しい話を聞いた。

代わりに頼んだ鯵のなめろうと本命の赤いか刺しを待つ間、自然と会話が続く。3人は両親と娘さんで、この店で3人揃うのはなんと10年ぶりだとか。めでたい時に居合わせた。そして話し込むうちに、もっと不思議な縁が明らかになっていったのである。

鯵のなめろう。非常になめらかで細やかな味わい

なんと娘さんは、我々の住まいのすぐ近くに住んでいるという。この日はたまたま実家の下田に帰ってきたところだそうだ。あまりメジャーとは言えない駅なのでびっくりである。お酒が大好きな彼女はよくその沿線を飲み歩いており、ここがお勧めなんです、と教えてくれたのは正に我々の行きつけの店で笑ってしまった。

おちょこを選ばせてもらえるとなんだか嬉しい

それから近隣の飲み屋の話で散々盛り上がり、不思議なご縁だね―などと言っていたのだが、更に不思議は続く。娘さんの友人が、我々の飲み友達が店長をしているラーメン屋の常連だという。ちなみに住まいとはまた全然違う場所である。

赤いかのミミと自家製味噌。甘めの味噌とコリコリ食感が最高

更に同じ静岡県出身である夫の出身高校とはよく剣道で戦っていたらしく、家族揃って何度も近所へ来ていたそうだ。同じ静岡でも夫は山の方で下田は海の方なのでなかなか珍しい縁である。偶然ってあるんだなぁ。

そうこうしているうちに本命の赤いか刺しが来た。

隅々まで美しき赤いか刺し

すべてが輝いて見える。身がねっとりして非常に甘い。サッと湯通しされたゲソと軟骨もちょうどいい塩梅。ワサビでなく生姜を合わせるのも私の好みだ。うっとりしていると、娘さんのお父さんが言う。「ここのご主人は魚を宝石のように扱うからね」

カウンターなのでずっとご主人の手元が見えているのだが、本当に丁寧に丁寧に食材を扱っているのがよく分かった。

何気なく頼んだ日本酒を後から調べたら、ご主人が田植えに携わっている酒だった

そろそろ飲みも終盤、明日の予定がふんわりしていることを伝えると、怒涛の勢いでおすすめのお店を教えてくれた。

お母さんが言うには鰹節なら山田鰹節店、花むすびは天むすが美味しい。平井製菓の牛乳あんパンは外せないし、ロロ黒船の水まんじゅう、さいかや菓子店のサブレも是非と娘さん。お父さんはなぜか自分で行ったことのない中華料理屋を勧めてくる。他にも行ききれないほどのお店をメモするので精一杯だった。

茶碗蒸し。山田鰹節店の節を使った出汁はたまらない香り

「今日はお客さんに接客してもらっちゃった」とご主人は優しく笑っていた。

山田鰹節店

二日目は昨晩の伏線回収である。

Yorimichi AIRDOにイカづくしの函館旅の記事を寄稿しました

航空会社AIRDOさんのWeb媒体「Yorimichi AIRDO」に、イカマニアとして函館の旅の様子を寄稿しました。

観光地としてさまざまな魅力がある函館ですが、金森倉庫とか夜景とかそういうものには一切触れず、イカだけに焦点を当てた狂った記事を書きましたので、是非読んで欲しいです。

yorimichi.airdo.jp

カメラマンの小野奈那子さんと旅をしながら、改めて函館はイカを愛しイカに愛された街だなと実感しました。

ずっと行きたかった函館市国際水産・海洋総合研究センターにもようやく行けて嬉しい。(平日しかやってないんですよ)

イカ研究で有名な桜井先生や、アニサキスをプリンで飼って研究して話題になった髙原先生にご挨拶できて感激だー。

取材とは関係ないのに、お昼ごはんも律儀にイカ縛りにしてみたり。
函館のご当地バーガーショップ、ラッキーピエロで期間限定の「いか踊りバーガー」を。

「CUTTLE FISH BURGER」って書いてあるけど、”CUTTLE FISH“ってコウイカ類のこと。多分使ってるのはスルメイカだから、正しくはツツイカ類を表す“SQUID“ BURGERじゃないのかなーなんて思ったりね。

実はタルタルソースは苦手なのだが、いか踊りバーガー本来の味を味わうために頑張って食べた。意外とイケた。



夜は取材でイカづくし飲みをしたんだけど、飲み足りなくてもう一軒。看板の吸引力に吸い込まれた。タコがイカ持ってるんですよ。かわいい。

看板のタコそっくりの大将に「函館来たらイカたべなきゃ!」って言われたけど、もう前の店でイカ飽和状態だったので、ホヤ刺しを食べるなど。 大将、ごめんね。ホヤも美味しかったよ。

スケジュール的にはかなりタイトな取材だったけれど、イカ好きの私には天国のようでした。 全国の「イカの街」をめぐって記事を書く的なお仕事来ないかな・・・。お待ちしております。

中板橋商店街「なかいたさくら祭り」でホタルイカの皮膚発光をみる

「ホタルイカの全身発光ショーが東京で開催されます」

Twitterでこの情報を頂いたときは震えた。

ちょうど先日、片道8時間かけて富山へホタルイカを捕りに行ったばかりの身である。あのホタルイカ、しかも生きたホタルイカが東京で見られるだって?!

どういうことなんだ。
調べてみると、どうやら板橋区の中板橋商店街にて桜の開花に合わせて毎年「なかいたさくら祭り」というお祭りが開催されており、そこでは富山県魚津市の観光協会と提携して魚津の名物であるホタルイカを中心とした物産展など、さまざまな催しが開かれているらしい。その催しの一つとして、ホタルイカの発光ショーが行われるというわけだ。

しかも頂いた情報によると、このショーでは今まで私が見たことのない、ホタルイカの「皮膚発光」を見せてくれるのだという。見たい。見た過ぎる。ホタルイカが私に「行け」と囁いている。

このトキメキ、どう言ったら伝わるだろう。遠征してまで会いに行くほど好きな地方アイドルがいたとして、地方での握手会へ行って帰ってきたら、小さなハコで東京公演をやることが決まってしかも新曲を披露してくれるみたいな感じか。わかんないけど。とにかく、そういうことだ。

なかいたばし商店街へ

というわけで来た。
心にピンと来たら即行動。動けるうちに色々やっておこう。なにせ都内だ。近い。

天気は曇りのち晴れ、各地で花見日和を迎えたこの日こそホタルイカとの再会にふさわしいだろう。ワクワクを抑えられないまま電車を乗り継ぎ中板橋へ。

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このごろはシャッターが下りたままの淋しい商店街も増えてきたけれど、ここの商店街は活気があって楽しげだ

さて、事前に調べた情報によると、ホタルイカ発光ショーを見るためには事前に整理券をもらわなければいけないらしい。もしかして、結構人気なのかしら。

お祭りが始まるちょうど11時ごろに商店街会館へ整理券をもらいに行ったのだが、発光ショー1回目(12:00)の回は既に満席。やっぱり人気だ。早めに来て正解だったな。2回目の13:00の回の券をドキドキしながら受け取った。

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夢のチケット、緊張しながら大事にしまう

ホタルイカの釜揚げ(桜煮)と桜見物

もう心は発光ショーへの期待で踊りだしそうなのだが、開始まで時間があるし折角だからお祭りを楽しみましょうかね。チラシで出し物をチェック。お、ホタルイカの釜揚げ販売なんてあるのか。

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ポップなデザインのチラシに気分も盛り上がる

ホタルイカの釜揚げと言えば、先日の旅でとれたての味に衝撃を受けたばかり。あのフワフワとろりの肝の味を超えるものなんて東京で出せるのかい。な~んてちょっと偉そうなことを思いながら商店街をうろついていると、早速販売ブースを発見。

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イカを茹でるいい香りが

なんと野外でせっせとホタルイカを茹でているではないか。本当にその場で釜揚げしているとは。釜揚げ済みのものを配るのかと思っていたよ。これは味に期待が出来そうだ。

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新鮮そうな生ホタルイカをテボに入れて茹でていた

こちらも人気があるようで、開始してすぐだというのに4~5人の行列。待っている間に、茹で係の魚津のお兄さんと「実はつい最近、富山でホタルイカ捕ったんですよ」「えー捕れたんですか!それはすごいラッキー」なんて会話をしたり。

そんな話をしている間にピッチピチのホタルイカが茹で上がりましたよ。

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プリプリっとした茹で上がり、伝わるかな

こんな立派なホタルイカにお茶ではさみしいでしょう、ということでお酒を物色。日本酒もいいけどちょっと量が多いな。ここはビールで。

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富山の地酒がよりどりみどりでそそられるけどね

商店街を抜けると石神井川が流れており、川沿いは見事な桜並木。橋の欄干をちょっと間借りして、一杯やらせてもらいましょうね。

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川べりの桜はかくも美しきかな。お供は宇奈月ビール

ホタルイカを塩水で茹で上げたものを、その色から「桜煮」と呼ぶ、というのは先日の旅で教えて貰ったこと。ホタルイカの桜煮とソメイヨシノ、春を告げるふたつの桜に乾杯!

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ホタルイカと7分咲きの桜で私の心にも春が来た。ほら、皮膚発光器がみえるね

ぱくり、と頬張ると、いい塩梅の塩味とはじけ出る濃厚な肝。これ、これですよ。この間富山で食べたとれたてホタルイカにも負けない旨さ!ひとくちごとに幸せがとろけだす。あっという間に食べ終わってしまった。東京の商店街でこんなに美味しいホタルイカに出会えるなんて。

ホタルイカの香りの余韻を楽しみながら、川沿いと商店街をぶらぶら。昼から飲んでいい気分だな。

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夜はライトアップもするらしい

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富山の物産展ではカニが格安で売られていたり

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ホタルイカの素干し詰め放題なんてのもあった

お祭り気分を満喫してお昼を済ませたら、そろそろショーが始まる時間。さてさて、いよいよだ。

発光ショーの前にビデオでお勉強

さぁ今日のメインイベント、ホタルイカ発光ショーの会場である商店街会館へやってきた。元気なお姉さんが案内してくれる。よっしゃ、発光だ!と意気込んでいたら、どうやら発光ショーの前にちょっとしたビデオ上映会があるらしい。焦らすねぇ。

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統一感のないイカのイラスト達がいい味出している

ホタルイカについて簡単に学んでから発光ショーに臨むとより一層楽しめるという配慮のようだ。なるほどそういうことなら、ビデオも全力で見ましょう。前のめり気味にスクリーンを見つめたところで、上映会スタート。

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ホタルイカの漁について。魚津では9つの定置網があり、大小の船が協力しながら網を引き揚げるそうだ

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続いて、ホタルイカの発光器についての説明。眼発光、腕発光、皮膚発光についてそれぞれの役割を教えてくれる

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皮膚発光の映像が流れる。こんな感じで今回見られるのだろうかと期待が高まる

10分ほどの短い映像だったが、魚津でのホタルイカ漁の様子、ホタルイカの発光器についての要点がまとまっており、これから始まる発光ショーへの気分を盛り上げてくれた。特に、ホタルイカにある3種類の発光器についてきちんと説明があったのは良かったな。

ホタルイカ解剖の話でも書いた通り、ホタルイカには眼・腕・皮膚の3種類の発光器がある。天敵から逃れるための幻惑効果を狙って光らせる腕発光器は、ホタルイカに刺激を与えることで簡単に見ることができるのだが、全身(腹側のみ)が光る皮膚発光はホタルイカ捕りの時には確認できず、どうやって見ればいいのか謎だった。それを今回は見せてもらえるというのだから、私の興奮がいかほどかご想像いただきたい。

お待ちかねの発光ショー

ビデオ上映が終わると、待ちに待ったホタルイカ発光ショーの時間である。会場には子供もたくさんいたけれど、この中の誰よりも興奮し、楽しみにしている自信がある。だって、東京で生きたホタルイカに会えるんだよ?しかも皮膚発光が見られるという。これがどれだけスゴイことだかみんな分かっているのかい。

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待ちきれなくてそわそわ

先程とは違う、黒いシートで遮光された怪しげな小部屋に通されると、ドアにはしっかり鍵がかけられた。部屋の真ん中には黒い布で覆われた水槽らしきものがある。きっとあれにホタルイカが入っているのだ。ドキドキ。ショー中は少しの光でも影響があるので、一切の光の出る機器の使用は禁止とのこと。写真が撮れないのは残念だけれどその分しっかりと目に焼き付けよう。

魚津の観光協会からやってきたという石原さんが、まずは自己紹介。朝5時ごろからホタルイカを車に乗せて魚津から東京まで運んできてくれたそうだ。先日行ってきたからよくわかるけれど、富山と東京って遠いのよ。お疲れ様です。

発光を見るためには暗闇に目を馴らす必要があるということで、赤いランプを除いて、部屋の灯りがすべて消された。その間にホタルイカがどうして光るのかについての解説や、このショーはまだ今日2回目だからイカが元気ですよなんて話を聞いたり。

あっという間に5分ほど経ち、目も馴れたところで待ちに待った発光ショーがスタートだ!
何故だか緊張して手汗をかいてきた。だって写真も取れないし、チャンスは一度きりなのだ。どんなふうに見えるんだろう。

水槽の周りに集まったら、最後までついていた赤いランプも消され部屋は完全な暗闇に。覆いを取られた水槽を見つめると、ん、何も見えない?いや、見えた!光ってる!ホタルイカが光っているよ!

見えたのはよく写真や映像で見かける強い青い光ではなく、小さな青白い光の粒。とても弱弱しくて繊細な光なのだがそれがたくさん集まってぼうっと光り、ホタルイカの形を成している。真っ暗な水槽の中にホタルイカの光のシルエットが浮かび上がり、それが泳ぎ回っているのはとても不思議な感じだ。泳ぐ星空。そんな言葉が浮かんだ。数匹集まるととても幻想的だ。これは未だかつて見たことのないものだ・・・!

「はい、手を出して!」
この状態のホタルイカを手に乗せてくれるらしい。こういう時に遠慮してはいけない、元気よく手を突き出すとヒヤッとした感触と共にホタルイカが乗せられた。すごい。光るホタルイカが手の中にいるのだ。興奮でわなわなと体が震えそう。ホタルイカは腹側しか光らないというからもっと部分的な光り方なのかと思っていたら、側面まで発光器があるようで本当に全身光っているかのよう。近くでみるとかなり立体的だ。光量控えめなエレクトリカルパレードといったら伝わるだろうか。光の粒ががちゃんとホタルイカの形をしているの。

一番近いのは、アクリルに3Dで彫られたレーザーアートかな。よくペーパーウェイトとかであるやつ。あれがホタルイカの形をしていると想像して欲しい。

これはサンタだが、この形がホタルイカになって光る感じ

それが暗闇の中でほわっと光り、動いているのだ。皮膚発光がこんなに繊細で美しいとは知らなかった。忘れないように、心のシャッターをパシャパシャと切る。これだけ淡い光だから、暗闇への馴化が必要だったんだね。ホタルイカをそっと水槽へ戻し、ショータイムは終了した。

すごかった。明かりがついた部屋で、まだ興奮冷めやらぬ自分がいた。サイリウムを振り回したような腕発光の強い光も迫力があって魅力的だが、体全体が天の川のように光る繊細な皮膚発光はまた別の美しさがあった。

これを東京で見られたことの貴重さを噛みしめる。魚津市観光協会の方と中板橋商店街の方の素晴らしい協力プレーのおかげだろう。感謝したい。

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ちょうどイカの入れ替えだからと、明かりがついた状態でホタルイカを見せてもらった

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手乗りホタルイカ。さすがにちょっとお疲れの様子だ

聞けば、このホタルイカの皮膚発光ショーは魚津水族館でも行っているらしい。魚津水族館は日本で最も歴史ある水族館。なんでもマツカサウオの発光も、この水族館で発見されたとか。発光系に縁があるのかな。

今度富山を訪れる時は、魚津へ行って朝市でも冷やかし、魚津水族館でホタルイカ発光ショーをみて、地酒と地魚に舌鼓を打つ旅ってのもいいかもしれないなぁ。ま、きっとどうせ夜は海岸にホタルイカを捕りに行っちゃうんだろうけど。

本当にいいものを見せていただいた。
派手さはないけれど、ジワリと心に残る体験をさせてもらったと思う。すごく得した気分で中板橋を後にした、春の午後であった。

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ホタルイカと出会う旅 in富山_その3

その1、その2はこちら

www.michael-sepio.com

www.michael-sepio.com

気合とメンバーに不足なし

結局あまり眠らないまま時は満ち、深夜。いよいよ本番中の本番だ。
寝てないのになぜか力がみなぎる。多分これは元気の前借りってやつで、後からどっと疲れが来るだろうけど、そんなことは気にしない。今こそ本気を出すときだ。今日この日のために富山までやって来たのよ。

この日向かったのは前日とはまた違う場所。より一層ホタルイカが湧く確率が高い場所だそうだ。よく考えたらホタルイカ初チャレンジにして天おじ氏とざざむしさんに案内してもらえるなんて、大変な贅沢である。ドラクエでいえば最初からパーティーメンバーがレベル99みたいな感じだ。

昨年、野食感謝祭に行けなかった直後は「一人でも富山行ってホタルイカを見るんだ!」と意気込んでいたが、土地勘も経験も運転スキルもないレベル1状態の私が一人で富山に来たところでせいぜいフナムシくらいしか見つけられないだろう。ちなみにフナムシ捕るのは割と得意だ。なんの話だ。

そうそう、私のように「ホタルイカを捕りたい!」と衝動に駆られている方は、暴走する前にざざむしさんの記事などをご一読されたし。ホタルイカに限らないけど、自然や人への配慮と感謝を忘れないようにしなければね。

zazamushi.net

意外とアッサリ?ホタルイカ発見

ホタルイカ捕りができる有難さが身に沁みたところで現場に到着。浜から戻ってくる人たちがやって来たので具合を聞いてみると、「いますよ」との返事。確かにその網にはホタルイカが入っていた!

グッと心拍数が跳ね上がるのを感じる。いるのだ。この浜にホタルイカが来てる!!興奮のあまり走り出しそうになるが、ウェーダーがガボガボいって転びそうだったのでドシドシと歩いた。※ウェーダーではしゃぐと死ぬので本当にやめましょう。

皆でぞろぞろ海へ入って、波打ち際を探す。さあ、捕まえてやるぞ。
と、身構えて5分も経たぬうちに、天おじ氏から「いたよ~」と声がする。えっそんなにすぐに?

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差された方向を疑いながら探る

いたー!いきなりいたよ、ホタルイカ。
もっとほら、こう、最初は打ちあがったやつしかいないとか、イカだと思ったらフグだったとかそういうストーリーを経て泳ぐホタルイカへたどり着くのかなと思っていたら、いきなりだ。とても浅い波打ち際に、赤っぽい物体が漂っている。

いつもはなんでもすぐに遠慮してしまう性質なのだが、ここだけは譲れない。すみませんが、皆様を差し置いて私がすくわせていただきますよ。この日のために新調した網で、すすっとホタルイカを追いかける。先日捕まえたミミイカは泳ぎが苦手な感じだったけれど、ホタルイカはビュッと素早く逃げるのだ。焦らず距離を縮め、キャッチ!

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捕まえた!捕まえたよ!

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記念すべき1匹目は皆に見守られながら

よっしゃ、捕った!しかしあまりに早い1匹目の発見に心がまだ追いついていってない。わたわたと写真を撮っていると、なんと今度はさのくに氏が自分で見つけてきた!

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え、もう自力で見つけてきたの!

さのくに氏はこういう捕まえる系のイベントに連れてくると、「自分は興味ありません」みたいな顔していつも私より先に見つけるんだよなぁ。でもあなたが着てるそのウェーダー、私が買ってあげた(さのくに氏を連れてくるために押し付けた)ものだから、半分くらいは私が捕ったようなもんだよね。なんて負け惜しみを言っている場合ではない。

更にやる気に火が付いた。私だって自分で見つけて、捕まえたい。人が見つけたのを捕まえさせてもらうのと、自分が見つけたのを捕まえるのでは喜びに天と地ほどの差があるのだよ。ここからは各自、己との戦いである。気分はホタルイカハンター。

自力でホタルイカを発見!

ホタルイカがどんなふうに泳いでいるのかは大体わかった。あんな感じを見つければいいんだな。先程すくった場所がかなり波打ち際だったので、波打ち際付近を攻めてゆく。すると身投げしているホタルイカを発見!

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これがホタルイカの身投げか

ギュポギュポとうごめいていて活きは良さそう。しかし打ち上げられたホタルイカは砂を噛んでおり、食用には向かないとのこと。ぐぬぬ。折角だから食べられるものをすくいたい。打ち上げられていなくても波打ち際まで追い詰められたものは同じく砂を噛んでいる可能性が高いというので、少し沖側に場所をチェンジ。

海面を照らしながらゆっくりと歩いていると、いた。あの小さな赤い背中が視界を横切った。動きが速い。口から心臓が出そうになりながらそっと近づく。慎重に、ゲット!

私、捕ったよ、ホタルイカ見つけて捕った!
世界でもこの富山湾にしか接岸しないんですよ、このイカは。しかもこの時期、限られた条件下だけ。そんなイカを捕まえたとあってはただ事ではないのです、少なくとも私の中では。

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富山湾の宝物を捕まえたよ

待ち望んた対面。ほたるいかミュージアムの時には目をそらしたけれど、今度は遠慮なく見る。大きな瞳と目が合っちゃった。赤い小さな色素胞の向こう側にはオレンジ色に輝く肝臓が透けて見える。光らなくても十分美しい。小さいながらもイカとしての機構をきちんと備えており、なんだか精巧にできたミニチュアという感じがする。これが生モノじゃなかったら、きっと大切に宝箱にしまって何度となく取り出して眺めたろうな。

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ホタルイカ、尊い・・・

ひとしきり眺めたら、もう次のホタルイカを捕まえたくてウズウズしてきた。真っ暗な夜の海から小さなホタルイカを見つけだし、捕まえる。これが楽しいのよ。まだ2匹しか捕まえていないのに、もうこの遊びの虜だ。

ホタルイカの光は強く青い

浜沿いに行ったり来たりしているとだんだんと目も慣れてきて、ひょいひょいとホタルイカを拾えるようになってきた。超楽しい。爆湧きと言う感じではないけど探せばぽつりぽつりといる感じで、他のみんなも各自すくえているようだ。

そういえば今までガンガンにライトで照らしていたから忘れていたけど、ホタルイカって光るんだった。ライトをふと消してみる。すくい上げられたホタルイカは2本の腕をぶんぶん振り回して、その先がネオンのように青く光りだした。

一生懸命振り回す腕が、切なくいじらしい。上手く光を捕えた写真が撮れなかったんだけれど、この光が思っていたより強いのだ。先日見たミミイカのぼんやりした光り方と比べてるからかもしれないが。

ホタルイカには3種類の発光器がついていて、そのうち一番強く光るのがこの腕発光器である。敵に襲われた時にパッと光らせてすぐに消し、光の残像で敵の目を欺くという戦法だ。普通のイカはこれを墨でやっているわけで、じゃあホタルイカは墨を吐かないの?というとこれが墨も吐くんだな。深海性のイカは光るかわりに墨を吐かない種類も多いんだけど(暗くてどうせ見えないから)、ホタルイカは浅場に浮上もしてくるからどちらも身につけたのかもしれない。

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シャッタースピードをどうにかしたらもっとよく撮れたんだろうけど。青くて綺麗

この光が海岸一面に広がっていたらさぞや幻想的だろう。いつかはそんな光景も見てみたいけれど、今回はこの小さな光を瞳の奥に焼き付けておくとしよう。

ホタルイカの精莢(せいきょう)を確認

夜がどっぷり更けてもホタルイカ捕りはまだまだ続く。我々は浜の中ごろにベースを構え、ベースと浜の端を「ホタルイカはいねが~」と往復しながら歩くというのが一つのスタイルになってきていた。

行き来の間に仲間と出会ったら成果を見せ合ったり。自分の方がたくさん見つけているとやっぱり誇らしい。そんな仲間との情報交換中に、素敵なものを発見したと教えてもらった。

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画面中央の白い手のひらみたいな形のもの、みえますか

写真中央の白い小さな手のひらみたいなもの、これはホタルイカの精莢(せいきょう)という精子のカプセルなのだ。イカの交接(交尾のようなもの)は少し変わっていて、オスがこの精莢を腕でもって「ハイどーぞ」とメスの体にくっつけるのである。ホタルイカの場合はその渡す先がメスの胴と頭の境目あたり(首根っこと勝手に呼んでいる)なわけだ。

これをこの場で観察できるとは!嬉しいなぁ。産卵のために浮上してくるから当然なんだけど、改めて見てみると捕まえたうちかなりの数のホタルイカにはこの精莢がついていた。左右に一つずつ、対照についている場合が多いようだ。本などで知識として知ってはいたものの、現場で確かめると納得感が違う。喜びと寝不足ハイで目がギラギラしてきたぞ。

と、ここでさのくに氏退場。翌日8時間運転するために睡眠時間を確保するのだ。「まいけるがホタルイカ見られればそれでいいから」との言葉。ありがとうさのくに氏。運転ばかりさせてごめんね。5年以内にペーパードライバー講習でも受けます。

レア!ホタルイカのオスをGET

「もしかして、これオスじゃないですか?」
もはや恒例となってきたすれ違いざまの情報交換で見せられたのは、今まで捕ってきたものより一回り小さなホタルイカ。

富山湾のホタルイカは産卵のタイミングで接岸するので、そのほとんどがメスなわけだ。その中にわずかながらオスが混じるとは聞いていたものの、実際に目にすることができるとは!

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いちばん上の貧相なのがオス

よく見ればメスとの違いは明白だ。体の大きさだけでなく、外套膜の形もメスがふっくらした円筒形に近いのに比べてオスはシュッとした円錐形、透けて見える肝もオスはずいぶん貧相だ。

見ちゃった。ホタルイカの雌雄見比べちゃったよ、うふふ。胸の底がムズムズする嬉しさ。これ、持って帰って自宅で解剖したいな。でも数が少ないし…と自分の網に目を落とすと、なんてことだ、自分もすくっていた。やったね。

喜びが後からこみ上げる

そんなこんな、途中休憩をはさんだりしながらせっせとホタルイカを掬っていたらもう早朝。そろそろ帰りましょうかね。

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結構捕れたぞ。食べるには十分そうだ

夢のような時間だったな。
ホタルイカすくいの最中は舞い上がってしまって地に足がついていなかったが、車に戻ってほっと一息つくと、ホタルイカを捕ったんだという喜びがじわじわと足元から上ってきた。

イカ釣りチャレンジの4種目を達成できたのもそうだけれど、私が密かに心の中でハンコを押していたもうひとつのスタンプラリーの10種中6種が埋まったのだ。なにかというと、玉置標本さん著の「捕まえて、食べる」に登場するエピソードをこっそりなぞっていたのである。

捕まえて、食べる

捕まえて、食べる

  • 作者:玉置 標本
  • 発売日: 2017/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

しかも今回は著者ご本人と一緒の旅。ファンとして嬉しくないわけがない。という感じはみじんも出さずにホタルイカ捕りしたけどね。シャイだから。この旅の記事に「捕まえて、食べる」のオマージュをいくつか潜ませておいたので、ヒマな人は見つけてニヤリとしてください。

とれたてホタルイカの肝はふわっふわ

帰ってきて少し疲労が顔を見せ始めたけれど、まだまだ夜は終わらない。とれたてピチピチのホタルイカを食べるのだ。

といっても生ではない。新鮮ならなんでも生で食べていいというわけではないよね。特にホタルイカは内臓に旋尾線虫という寄生虫がいることがあるので生食は基本ご法度。お湯を沸かして、茹でていきましょう。

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ザルにあけて軽く洗う。この時点で解剖用にオスをより分けたつもりだったが、後から確認したらより分けたのは全部メスだった・・

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お湯に入れた直後は灰色になるのか。生から茹でたことがなければ見ることがないだろうこの色を知ることができて嬉しい

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沸いてくると美味しそうなあずき色に

天おじ氏がこだわりのゆで加減でゆで上げてくれたホタルイカは見た目にもプリップリでよだれが出る。早く食べたくなっちゃうけど、まだですよ。目と軟甲を取り除くことで口当たりが変わってくるので、よだれは拭ってみんなでチマチマ手仕事。こういう時間も楽しいね。

手分けしたのでまだホタルイカが温かいうちに作業も終わった。お待ちかねの実食タイム!

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パンパンのプリップリ、いい香りもしている

一口食べると外はプリっとしつつも中の肝はフワフワ!なんだこれは、私が知っているホタルイカとは全然違うぞ。まず食感が全然違うのだ。肝がホワホワで、油断していると口の中でなくなってしまう。少しの臭みもないし、くどくないのに濃厚な肝の味わいが口に広がる。

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美味しさが凝縮した一粒

とれたてはこうも違うのかと思わず唸る。結構な量があったけれどひょいパク、ひょいパクと箸が止まらない。そして更に嬉しい驚きが。茹でたホタルイカの中のオスが発見されたのだ。

茹で後の写真を撮り忘れたのが悔やまれるが、明らかにメスより小さく痩せた感じ。食べさせてもらうとメスと違って全然肝の味がしない。イカの身の味がより感じられるけど、やっぱりみんなが好きなのはメスだろうな。漁でとられたホタルイカは手作業でオスをはじいてから流通に乗るため、購入品ではオスは食べられないそうだ。自分で捕ったからこそ味わえる特別な味。心に刻んだ。

白んでゆく空を眺めながら、心地よい疲労感に身を任す。こうして私の初めてのホタルイカ捕りは、大成功に終わったのだった。

ありがたい旅

今回の旅は本当に楽しかった。冗談抜きで人生の終わりに思い返す旅の一つになったと思う。
それはまず、この旅の世話役、天おじ氏あってのことだろう。下調べや道具の準備、後処理など大変なところを色々お任せしてしまった。車での移動はさのくに氏に頼りっぱなしだったし、こうして天おじ氏、ざざむしさんに会えたのも365日野草生活さんのおかげである。ホタルイカを捕りたいという気持ちのきっかけになり、情報を与えてくれたのは玉置標本さんやざざむしさんの記事によるところが大きい。運よく天候も味方についてくれた。

イカが好きだという気持ちだけは負けない自信があるけれど、まだまだ一人でできることは少ない私である。こうやって受けた恩を何かの形で返していけたらと思う。今のところ私にできるのはイカの良さを広めることくらいですが、長い目でみてやってください。

今回のように色々とお膳立てしていただくことが多いけれど、いつかは私も自分の力で生き物がいる場所を見つけたり、捕り方を試行錯誤したりしてみたいな。そしてその楽しみを、誰かに伝えられたら。まあそれをするには生き物自体についてだけでなく環境や法律についても学ばなきゃならないことが多いんだけど。こういった遊びって意外といろんなものの繊細なバランスで成り立っているから。

ホタルイカすくいのようなその土地ならではの季節の楽しみが、いつまでも続けられるようにと願っている。

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ホタルイカと出会う旅 in富山_その2

その1はこちら

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富山らしいお昼ごはん?手打ちラーメンをいただく

「お昼はなんか富山っぽいもの食べたい!」という雑なリクエストを天おじ氏にぶん投げたところ、地のモノを食べさせてくれそうな食堂へ連れて行ってくれた。しかしたどり着いた時にはもう売り切れ御免。それならばと付近の市場っぽいところを覗いたものの、すごい観光地価格の定食にひるむ。

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市場で売られていたホタルイカ。やっぱり不漁なのかなかなかのお値段

悩んだ末、天おじ氏の馴染みのラーメン屋へ行くことに。
古くからやっている手打ちラーメンのお店で、「やまや」さんという。昼食には少し遅い時間にも関わらず、店内はかなり混みあっていた。人気店のようだ。

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青いラーメン屋ってちょっと珍しい気がするな。お客さんがどんどん入っていく

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慣れた感じで座敷へ座る天おじ氏と、お品書きを見上げる手打ち麺の人

メニューを見ると、どうやらワンタンが推しらしい。というわけでみんなワンタン入りを注文。店内のテレビなんかを見ながらのんびり待っていると、てきぱきとしたおばちゃんがラーメンを運んできてくれた。

これがしみじみ美味しかった。ほーっと幸せなため息が漏れる。下手な観光地食堂とか行かなくて正解だった。澄んだスープにとぅるんとぅるんのワンタンもイイ。富山というとどうしても海の幸を思い浮かべるけれど、ある意味このラーメンの方がここでしか食べられない味かもしれないよね、なんて話しながらすするのがいいんですよ。天おじ氏、昼食のチョイスも流石です。

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気取らないルックスに素朴な味のチャーシューワンタンメン

こういうノスタルジックなラーメンが好きなさのくに氏は、この旅行で一番の笑顔を見せていた。良かったね。まぁ味など詳しいことは彼の食べログレポでも読んであげてください。

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ほたるいかミュージアムで予習をしよう

腹ごしらえも済んで、のんびりしてもよかったんだけどちょっと欲張ってほたるいかミュージアムへ。自分で捕る前に行っちゃっていいのかとも思ったのだが、イカのこととなるとやっぱり貪欲になってしまうんだ。だって「好きなあの子の秘密、大解剖!」みたいな施設があったら絶対行くでしょ。そういうことだ。

実は旅行前にも「ホタルイカの素顔」という本で勉強していたのだが、このミュージアムにしかない情報とか色々あるかもしれないじゃない。気になっちゃう。あらかじめ知識を入れてから出会うことによる楽しみというのはそれはそれであると思うのである。

ホタルイカの素顔

ホタルイカの素顔

結果、大満足!
イカ好きじゃない人は若干引くのではというくらい濃い内容で、ホタルイカの生態についてや身投げの謎、富山におけるホタルイカの歴史まで学べてしまう、情報たっぷりの施設になっていた。私が読んだ本は20年近く前のものだったので、更新されている情報なんかを照らし合わせたりして研究者の方の努力に思いを馳せた。

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このホタルイカ図、小学生くらいの大きさあるからね。でかい

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行きの車中で出し合ったホタルイカクイズの答え合わせもここでできた

そして、施設の最後の方には、「ホタルイカタッチ水槽」が。
生きたホタルイカが触れるように展示されているのだ。ここはかなり葛藤があった。だって私、ホタルイカ初めてなんですよ。ファーストホタルイカ。やっぱり大切な「初めて」は最高のシチュエーションで迎えたいじゃないですか(いやらしくない程度に男女関係に置き換えて想像してみてください)。

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タッチしなよと誘ってくる

・・・しばし悩んだ挙句、結局触る。だって、もし今晩ホタルイカが湧かなければこれが生きたホタルイカと触れ合える最後のチャンスになるかもしれないのだ。そんな悲しいことにはならないで欲しいが、一応保険で、ね?と、脳内で誰も聞いていない言い訳をしながら水槽へ手を入れる。

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意外と活きが良くて、思い切り指を噛まれた。ごめんよ

初めての活ホタルイカは思っていたより元気で、水からあげるとキュポキュポと外套膜を膨らませたりすぼめたりして可愛らしかった。でもやっぱりじっくり見たい気持ちと、ここですべてを見てしまっては今晩の楽しみが、という気持ちがせめぎ合って、手にしっかりとホタルイカ持ちながら目をそらすという意味の分からないことをしてしまった。これが今晩、自然の状態で見られたら言うことなし100点満点の旅にになるんだけど、どうかなぁ。

時間も押していたので、すべての展示をじっくり見ることは叶わなかったけれど、これもまた次回への楽しみだ。3月下旬からはホタルイカの発光ショーもやっているらしいので、次はその時期にゆっくり来ようかな。

なんて言いつつもやはり後ろ髪を引かれる思いで、一瞬だけ!とミュージアムショップを覗いたら素敵な出会いが!

ホタルイカ―不思議の海の妖精たち

ホタルイカ―不思議の海の妖精たち

そう、この本です。フルカラー102ページでホタルイカに関するあらゆるマニアック情報を網羅したこの本が、なんと1400円程度で購入できたのだ。これを見つけたときの歓喜たるや。まだホタルイカ捕りもしていないのに、ちょっと震えた。ほっくほくの気分だ。帰りの車中のお供はこれに決まりだな。

今朝の釣果で白身食べ比べ

ミュージアムから戻って近所の温泉でひとっ風呂浴びたら、すっかり夜。まだ出会って2日目の天おじ氏のところへまるで自分の家のように帰ってくると、夕ご飯が出来ていた。すごい、ここは天国か。お風呂の間に天おじ氏が今朝釣った魚を捌いてくれていたのだ。こんなに至れり尽くせりでバチがあたりはしないかしら。

食卓に並んだ魚は白身ばかり。私は白身が好きなのでニヤつきが抑えられない。
白身魚って味が淡白だと言われるけれど、結構個性豊かだと思うんだよな。実際に食べ比べるとよくわかる。魚それぞれの個性もあるし、釣ってからの状態によってこりっこりで味がなかったり、うま味と脂が染み出してきたり。

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キダイ、キジハタ、ウッカリカサゴ、ウマヅラハギと白身のオンパレード

「関東のウマヅラハギの肝は灰色で美味しくない、こちら(富山)は肝も美味しい」なんて話を聞きながら、自分たちの釣果をつつく喜びといったら。本当に肝が旨かった。特製のアラ汁も染みる。

日本酒をきゅっとやりたいところだったが、今晩こそが本番なのでノンアルコールビールで脳を騙してやり過ごした。捕れるかなー、ホタルイカ。緊張してきたぞ。ホタルイカが接岸してくるのは深夜~早朝なのでそれまで少しでも寝ておきたいのだが、この胸の高鳴りがそれを許してくれそうにない。

眠れないまま、その3に続く。

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