ホタルイカと出会う旅 in富山_その3

その1、その2はこちら

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気合とメンバーに不足なし

結局あまり眠らないまま時は満ち、深夜。いよいよ本番中の本番だ。
寝てないのになぜか力がみなぎる。多分これは元気の前借りってやつで、後からどっと疲れが来るだろうけど、そんなことは気にしない。今こそ本気を出すときだ。今日この日のために富山までやって来たのよ。

この日向かったのは前日とはまた違う場所。より一層ホタルイカが湧く確率が高い場所だそうだ。よく考えたらホタルイカ初チャレンジにして天おじ氏とざざむしさんに案内してもらえるなんて、大変な贅沢である。ドラクエでいえば最初からパーティーメンバーがレベル99みたいな感じだ。

昨年、野食感謝祭に行けなかった直後は「一人でも富山行ってホタルイカを見るんだ!」と意気込んでいたが、土地勘も経験も運転スキルもないレベル1状態の私が一人で富山に来たところでせいぜいフナムシくらいしか見つけられないだろう。ちなみにフナムシ捕るのは割と得意だ。なんの話だ。

そうそう、私のように「ホタルイカを捕りたい!」と衝動に駆られている方は、暴走する前にざざむしさんの記事などをご一読されたし。ホタルイカに限らないけど、自然や人への配慮と感謝を忘れないようにしなければね。

zazamushi.net

意外とアッサリ?ホタルイカ発見

ホタルイカ捕りができる有難さが身に沁みたところで現場に到着。浜から戻ってくる人たちがやって来たので具合を聞いてみると、「いますよ」との返事。確かにその網にはホタルイカが入っていた!

グッと心拍数が跳ね上がるのを感じる。いるのだ。この浜にホタルイカが来てる!!興奮のあまり走り出しそうになるが、ウェーダーがガボガボいって転びそうだったのでドシドシと歩いた。※ウェーダーではしゃぐと死ぬので本当にやめましょう。

皆でぞろぞろ海へ入って、波打ち際を探す。さあ、捕まえてやるぞ。
と、身構えて5分も経たぬうちに、天おじ氏から「いたよ~」と声がする。えっそんなにすぐに?

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差された方向を疑いながら探る

いたー!いきなりいたよ、ホタルイカ。
もっとほら、こう、最初は打ちあがったやつしかいないとか、イカだと思ったらフグだったとかそういうストーリーを経て泳ぐホタルイカへたどり着くのかなと思っていたら、いきなりだ。とても浅い波打ち際に、赤っぽい物体が漂っている。

いつもはなんでもすぐに遠慮してしまう性質なのだが、ここだけは譲れない。すみませんが、皆様を差し置いて私がすくわせていただきますよ。この日のために新調した網で、すすっとホタルイカを追いかける。先日捕まえたミミイカは泳ぎが苦手な感じだったけれど、ホタルイカはビュッと素早く逃げるのだ。焦らず距離を縮め、キャッチ!

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捕まえた!捕まえたよ!

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記念すべき1匹目は皆に見守られながら

よっしゃ、捕った!しかしあまりに早い1匹目の発見に心がまだ追いついていってない。わたわたと写真を撮っていると、なんと今度はさのくに氏が自分で見つけてきた!

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え、もう自力で見つけてきたの!

さのくに氏はこういう捕まえる系のイベントに連れてくると、「自分は興味ありません」みたいな顔していつも私より先に見つけるんだよなぁ。でもあなたが着てるそのウェーダー、私が買ってあげた(さのくに氏を連れてくるために押し付けた)ものだから、半分くらいは私が捕ったようなもんだよね。なんて負け惜しみを言っている場合ではない。

更にやる気に火が付いた。私だって自分で見つけて、捕まえたい。人が見つけたのを捕まえさせてもらうのと、自分が見つけたのを捕まえるのでは喜びに天と地ほどの差があるのだよ。ここからは各自、己との戦いである。気分はホタルイカハンター。

自力でホタルイカを発見!

ホタルイカがどんなふうに泳いでいるのかは大体わかった。あんな感じを見つければいいんだな。先程すくった場所がかなり波打ち際だったので、波打ち際付近を攻めてゆく。すると身投げしているホタルイカを発見!

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これがホタルイカの身投げか

ギュポギュポとうごめいていて活きは良さそう。しかし打ち上げられたホタルイカは砂を噛んでおり、食用には向かないとのこと。ぐぬぬ。折角だから食べられるものをすくいたい。打ち上げられていなくても波打ち際まで追い詰められたものは同じく砂を噛んでいる可能性が高いというので、少し沖側に場所をチェンジ。

海面を照らしながらゆっくりと歩いていると、いた。あの小さな赤い背中が視界を横切った。動きが速い。口から心臓が出そうになりながらそっと近づく。慎重に、ゲット!

私、捕ったよ、ホタルイカ見つけて捕った!
世界でもこの富山湾にしか接岸しないんですよ、このイカは。しかもこの時期、限られた条件下だけ。そんなイカを捕まえたとあってはただ事ではないのです、少なくとも私の中では。

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富山湾の宝物を捕まえたよ

待ち望んた対面。ほたるいかミュージアムの時には目をそらしたけれど、今度は遠慮なく見る。大きな瞳と目が合っちゃった。赤い小さな色素胞の向こう側にはオレンジ色に輝く肝臓が透けて見える。光らなくても十分美しい。小さいながらもイカとしての機構をきちんと備えており、なんだか精巧にできたミニチュアという感じがする。これが生モノじゃなかったら、きっと大切に宝箱にしまって何度となく取り出して眺めたろうな。

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ホタルイカ、尊い・・・

ひとしきり眺めたら、もう次のホタルイカを捕まえたくてウズウズしてきた。真っ暗な夜の海から小さなホタルイカを見つけだし、捕まえる。これが楽しいのよ。まだ2匹しか捕まえていないのに、もうこの遊びの虜だ。

ホタルイカの光は強く青い

浜沿いに行ったり来たりしているとだんだんと目も慣れてきて、ひょいひょいとホタルイカを拾えるようになってきた。超楽しい。爆湧きと言う感じではないけど探せばぽつりぽつりといる感じで、他のみんなも各自すくえているようだ。

そういえば今までガンガンにライトで照らしていたから忘れていたけど、ホタルイカって光るんだった。ライトをふと消してみる。すくい上げられたホタルイカは2本の腕をぶんぶん振り回して、その先がネオンのように青く光りだした。

一生懸命振り回す腕が、切なくいじらしい。上手く光を捕えた写真が撮れなかったんだけれど、この光が思っていたより強いのだ。先日見たミミイカのぼんやりした光り方と比べてるからかもしれないが。

ホタルイカには3種類の発光器がついていて、そのうち一番強く光るのがこの腕発光器である。敵に襲われた時にパッと光らせてすぐに消し、光の残像で敵の目を欺くという戦法だ。普通のイカはこれを墨でやっているわけで、じゃあホタルイカは墨を吐かないの?というとこれが墨も吐くんだな。深海性のイカは光るかわりに墨を吐かない種類も多いんだけど(暗くてどうせ見えないから)、ホタルイカは浅場に浮上もしてくるからどちらも身につけたのかもしれない。

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シャッタースピードをどうにかしたらもっとよく撮れたんだろうけど。青くて綺麗

この光が海岸一面に広がっていたらさぞや幻想的だろう。いつかはそんな光景も見てみたいけれど、今回はこの小さな光を瞳の奥に焼き付けておくとしよう。

ホタルイカの精莢(せいきょう)を確認

夜がどっぷり更けてもホタルイカ捕りはまだまだ続く。我々は浜の中ごろにベースを構え、ベースと浜の端を「ホタルイカはいねが~」と往復しながら歩くというのが一つのスタイルになってきていた。

行き来の間に仲間と出会ったら成果を見せ合ったり。自分の方がたくさん見つけているとやっぱり誇らしい。そんな仲間との情報交換中に、素敵なものを発見したと教えてもらった。

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画面中央の白い手のひらみたいな形のもの、みえますか

写真中央の白い小さな手のひらみたいなもの、これはホタルイカの精莢(せいきょう)という精子のカプセルなのだ。イカの交接(交尾のようなもの)は少し変わっていて、オスがこの精莢を腕でもって「ハイどーぞ」とメスの体にくっつけるのである。ホタルイカの場合はその渡す先がメスの胴と頭の境目あたり(首根っこと勝手に呼んでいる)なわけだ。

これをこの場で観察できるとは!嬉しいなぁ。産卵のために浮上してくるから当然なんだけど、改めて見てみると捕まえたうちかなりの数のホタルイカにはこの精莢がついていた。左右に一つずつ、対照についている場合が多いようだ。本などで知識として知ってはいたものの、現場で確かめると納得感が違う。喜びと寝不足ハイで目がギラギラしてきたぞ。

と、ここでさのくに氏退場。翌日8時間運転するために睡眠時間を確保するのだ。「まいけるがホタルイカ見られればそれでいいから」との言葉。ありがとうさのくに氏。運転ばかりさせてごめんね。5年以内にペーパードライバー講習でも受けます。

レア!ホタルイカのオスをGET

「もしかして、これオスじゃないですか?」
もはや恒例となってきたすれ違いざまの情報交換で見せられたのは、今まで捕ってきたものより一回り小さなホタルイカ。

富山湾のホタルイカは産卵のタイミングで接岸するので、そのほとんどがメスなわけだ。その中にわずかながらオスが混じるとは聞いていたものの、実際に目にすることができるとは!

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いちばん上の貧相なのがオス

よく見ればメスとの違いは明白だ。体の大きさだけでなく、外套膜の形もメスがふっくらした円筒形に近いのに比べてオスはシュッとした円錐形、透けて見える肝もオスはずいぶん貧相だ。

見ちゃった。ホタルイカの雌雄見比べちゃったよ、うふふ。胸の底がムズムズする嬉しさ。これ、持って帰って自宅で解剖したいな。でも数が少ないし…と自分の網に目を落とすと、なんてことだ、自分もすくっていた。やったね。

喜びが後からこみ上げる

そんなこんな、途中休憩をはさんだりしながらせっせとホタルイカを掬っていたらもう早朝。そろそろ帰りましょうかね。

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結構捕れたぞ。食べるには十分そうだ

夢のような時間だったな。
ホタルイカすくいの最中は舞い上がってしまって地に足がついていなかったが、車に戻ってほっと一息つくと、ホタルイカを捕ったんだという喜びがじわじわと足元から上ってきた。

イカ釣りチャレンジの4種目を達成できたのもそうだけれど、私が密かに心の中でハンコを押していたもうひとつのスタンプラリーの10種中6種が埋まったのだ。なにかというと、玉置標本さん著の「捕まえて、食べる」に登場するエピソードをこっそりなぞっていたのである。

捕まえて、食べる

捕まえて、食べる

  • 作者:玉置 標本
  • 発売日: 2017/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

しかも今回は著者ご本人と一緒の旅。ファンとして嬉しくないわけがない。という感じはみじんも出さずにホタルイカ捕りしたけどね。シャイだから。この旅の記事に「捕まえて、食べる」のオマージュをいくつか潜ませておいたので、ヒマな人は見つけてニヤリとしてください。

とれたてホタルイカの肝はふわっふわ

帰ってきて少し疲労が顔を見せ始めたけれど、まだまだ夜は終わらない。とれたてピチピチのホタルイカを食べるのだ。

といっても生ではない。新鮮ならなんでも生で食べていいというわけではないよね。特にホタルイカは内臓に旋尾線虫という寄生虫がいることがあるので生食は基本ご法度。お湯を沸かして、茹でていきましょう。

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ザルにあけて軽く洗う。この時点で解剖用にオスをより分けたつもりだったが、後から確認したらより分けたのは全部メスだった・・

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お湯に入れた直後は灰色になるのか。生から茹でたことがなければ見ることがないだろうこの色を知ることができて嬉しい

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沸いてくると美味しそうなあずき色に

天おじ氏がこだわりのゆで加減でゆで上げてくれたホタルイカは見た目にもプリップリでよだれが出る。早く食べたくなっちゃうけど、まだですよ。目と軟甲を取り除くことで口当たりが変わってくるので、よだれは拭ってみんなでチマチマ手仕事。こういう時間も楽しいね。

手分けしたのでまだホタルイカが温かいうちに作業も終わった。お待ちかねの実食タイム!

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パンパンのプリップリ、いい香りもしている

一口食べると外はプリっとしつつも中の肝はフワフワ!なんだこれは、私が知っているホタルイカとは全然違うぞ。まず食感が全然違うのだ。肝がホワホワで、油断していると口の中でなくなってしまう。少しの臭みもないし、くどくないのに濃厚な肝の味わいが口に広がる。

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美味しさが凝縮した一粒

とれたてはこうも違うのかと思わず唸る。結構な量があったけれどひょいパク、ひょいパクと箸が止まらない。そして更に嬉しい驚きが。茹でたホタルイカの中のオスが発見されたのだ。

茹で後の写真を撮り忘れたのが悔やまれるが、明らかにメスより小さく痩せた感じ。食べさせてもらうとメスと違って全然肝の味がしない。イカの身の味がより感じられるけど、やっぱりみんなが好きなのはメスだろうな。漁でとられたホタルイカは手作業でオスをはじいてから流通に乗るため、購入品ではオスは食べられないそうだ。自分で捕ったからこそ味わえる特別な味。心に刻んだ。

白んでゆく空を眺めながら、心地よい疲労感に身を任す。こうして私の初めてのホタルイカ捕りは、大成功に終わったのだった。

ありがたい旅

今回の旅は本当に楽しかった。冗談抜きで人生の終わりに思い返す旅の一つになったと思う。
それはまず、この旅の世話役、天おじ氏あってのことだろう。下調べや道具の準備、後処理など大変なところを色々お任せしてしまった。車での移動はさのくに氏に頼りっぱなしだったし、こうして天おじ氏、ざざむしさんに会えたのも365日野草生活さんのおかげである。ホタルイカを捕りたいという気持ちのきっかけになり、情報を与えてくれたのは玉置標本さんやざざむしさんの記事によるところが大きい。運よく天候も味方についてくれた。

イカが好きだという気持ちだけは負けない自信があるけれど、まだまだ一人でできることは少ない私である。こうやって受けた恩を何かの形で返していけたらと思う。今のところ私にできるのはイカの良さを広めることくらいですが、長い目でみてやってください。

今回のように色々とお膳立てしていただくことが多いけれど、いつかは私も自分の力で生き物がいる場所を見つけたり、捕り方を試行錯誤したりしてみたいな。そしてその楽しみを、誰かに伝えられたら。まあそれをするには生き物自体についてだけでなく環境や法律についても学ばなきゃならないことが多いんだけど。こういった遊びって意外といろんなものの繊細なバランスで成り立っているから。

ホタルイカすくいのようなその土地ならではの季節の楽しみが、いつまでも続けられるようにと願っている。

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