茹でたホタルイカを解剖・観察してみよう

さて今年もこの季節がやってきた。ホタルイカの接岸である。

数あるイカの中でも特にホタルイカが好きなので、私は毎年この時期を心待ちにしている。食べるのはもちろんのこと、気力があれば富山までホタルイカを掬いに行くし、ちょっといい魚屋で生ホタルイカを買い込んで解剖するのも楽しみだ。

素敵な発光器を持ったイカを観察する楽しさを皆に伝えたいと思うのだが、ホタルイカはサイズが小さく初心者が解剖するには難しい。そもそも生のホタルイカは産地から離れた場所では手に入りづらい。そこで思いついたのが茹でホタルイカの解剖である。茹でると組織がギュッと固まるので内臓などが扱いやすくなるし、一番皆が見たいであろう(?)発光器の観察もきちんとできる。

というわけで、以下に簡単な観察ポイントを生と茹での比較写真を見せながら解説するので、良かったら挑戦して欲しい。今年はホタルイカ豊漁でお買い得だしね。

発光器の観察

発光器はすべて体の外側から見えるので観察は簡単だ。ホタルイカには3種類それぞれ役割の違う発光器があるので、1つずつ見ていこう。

腕発光器

3種の発光器の中で一番強い光を放つ腕発光器は左右の第Ⅳ腕の先端についている。第Ⅳ腕ってどれだよと思うだろうが、わからなくても大丈夫。先端に黒ゴマが3つ並んだようになっている腕が第Ⅳ腕で、その黒ゴマが発光器である。

茹でホタルイカの腕発光器

生ホタルイカの腕発光器

腕を光らせるのは捕食者から逃げる際におとりとして使うからではないかと考えられている。腕先の強い発光で自分の位置を相手に印象付け、パッと光を消してその隙にジェット噴射で逃げるのだ。光を素早く消すのに役立っているのが、この黒ゴマである。実は発光器自体は黄色っぽい色をしており、それを黒い色素胞が覆っているのだ。光らせたいときは色素胞を縮めて、光を消して見せたいときは色素胞を広げてシャッターのようにして隠してしまう。まったくよくできている。

生ホタルイカの腕発光器(色素胞が縮んだver.)

皮膚発光器

ホタルイカの皮膚発光器は体の腹側に約1,000個点在している。それだけたくさんあればすぐにわかりそうだが、ホタルイカに限らずイカの全身には色素胞と呼ばれる色素が入った粒がたくさんあり、その中に発光器が紛れてしまうので、見つけるには少しコツがいる。

茹でたホタルイカの皮膚発光器と色素胞を見分けるコツとしてはこんな感じ。
・腹側にしかないこと
・不揃いな形の色素胞と比べて、まん丸な形。
・なんとなく灰色っぽい

生だともう少しわかりやすいんだけどね。

茹でホタルイカの皮膚発光器(矢印で示したもの)

生ホタルイカの皮膚発光器(青や緑の丸)

この皮膚発光器はホタルイカ自身の影を消すために使われている。どういうことか。昼間は太陽の光が上から降り注いでいるので、ホタルイカより深い位置にいる捕食者からはホタルイカの影が丸見え。このままでは見つかってしまうので、その影を消すようにホタルイカは腹側を光らせて自らの影を消してしまうのだ。しかも地上からの光に合わせて自身の光量を調整する機能まであるというから驚きである。

眼発光器

3種類目の眼発光器は、眼球の腹側についている。白い5つの点がそれである。茹でたホタルイカは眼の状態がまちまちなので、目玉が飛び出てわかりやすいものを選ぼう。

茹でホタルイカの眼発光器。左は目玉が飛び出しており、こちらを観察する

拡大するとわかりやすい。

茹でホタルイカの眼発光器(拡大)

生の状態でも発光器は白っぽく見える。

生ホタルイカの眼発光器

さて、この眼発光器が何のためについているかというと、未だ不明なのだそうだ。そもそも生きたホタルイカで発行が確認されておらず、取り出すと発光するという(私はまだ観測できていない)。子供の頃に目の影を消すために使われていたのではないかという説がある。

腹を開いて内臓の観察

ちなみに生ホタルイカは茹でたのより2まわりくらい大きいよ

内臓の観察はざっくりになってしまうが、一応書いておく。 間違って先に下処理しちゃったので、この辺は写真だけ。下処理方法は検索するといくらでも出ます。

ホタルイカの下処理

生殖器官

茹でホタルイカを食べたことがある人なら多分気になっているこれ。これは輸卵管腺と言って、卵を包むゼリー状の物質を分泌する器官である。ホタルイカの卵はこのゼリー状の物質に包まれて数珠のように一列になって産み落とされる。

ぴょんと出ている白い器官は輸卵管腺

開腹。先ほど飛び出ていた輸卵管腺と、体の後端を覆いつくす白っぽい粒々した卵巣が見える。左右にぴょろっと出ているのはエラ。

茹でホタルイカを開いたところ
出来るだけ生状態の写真も添えるので参考にしてほしい。
生ホタルイカを開いたところ

輸卵管腺だけ取り出してみよう。輸卵管は左右一対あるのだが、合わせるとハート形っぽくて可愛い。

輸卵管腺(茹で)だけを取り出したところ
輸卵管腺(生)だけをとりだしたところ

卵巣は圧倒的に茹でたほうが取り出しやすい。生はトロトロこぼれてしまって写真がない。

卵巣(茹で)だけを取り出したところ

循環器

卵巣から生えているみたいに左右にぴょろっと出ているのはエラ。これを中心に向かって辿っていくとエラ心臓と心臓を見つけることができる。同系色なので分かりづらいけど。

チラ見えするエラ(茹で)

この部分も茹でたからこそ取り出せる部分かも。生の状態だと千切れやすくて扱いが難しい。

ホタルイカの循環器(茹で)

分かりづらい場合は生状態の写真を参考に位置を探ってほしい。これは内臓を水につけた状態で撮影したもの。

ホタルイカの循環器(生)

ホタルイカの循環器(生)だけを取り出したところ

消化器

生殖器官と循環器を取り除くと消化器が見えてくる。こちらは生の方を先に見せる。

ホタルイカの消化器官(生)

これを取り出した(茹で)ものがこちら。結構複雑な消化器官を持っている。

ホタルイカの消化器官・墨汁嚢(茹で)

ここまでバラしたら、あとに残るのは肝臓のみ。写真を撮り忘れたが、大きいオレンジ色の器官が肝臓なのですぐわかると思う。

観察した部位を並べてみると達成感があるよ。

(おまけ)部位別の味見

興味本位で部位別に味見してみた。

  • 卵巣:ホクホクしていてほんのり甘みとしっかり旨味がある。
  • 肝臓:いわゆる肝の味。濃い。
  • 外套膜と腕:イカ味。

肝だけだと少し味が濃いので、卵と合わさることでちょうどよい味になっている感じ。好みにもよるが。ちなみにこの時期に接岸するのはほとんどがメスで、万一漁でオスが混ざっても選別の時にはじかれるので我々の口に入るのはメスのみだ。一度、富山の方のご厚意でオスを送ってもらい食べたのだが、メスほど美味しくはなかったのはそういうことだろう。

茹でホタルイカの解剖と味見、ぜひやってみてください。

参考文献