解剖できるイカのぬいぐるみが完成した。
構想から裁縫・刺繍・ビーズの訓練含めて4年の歳月を経て、とうとう形になったのだ。
特に誰に依頼されたわけでも何かの役に立つわけでもないが、執念で完成させたので見てほしい。
イカ解剖ぬいぐるみ全貌
まあとにかく見てくださいな。まずは動画。Xで519万インプレッションもらって驚いた。
#イカ解剖ぬいぐるみ
— 佐野まいける (@_maicos_) January 28, 2024
いつでもイカを解剖する気分を味わえるぬいぐるみを作ったよ!
構想から4年かかった(試作2匹含む) pic.twitter.com/ur0x7QTYdX
本物から型どった全身
本物から型を取ったのでガチなサイズ感(かなり大きいスルメイカではある)。
ヒレ
ヒレは作っていて楽しい部分。切ってつけるだけなので。しかし縫い目はばっちり見えるのでかなり気を使った。
虚ろな瞳
目蓋も本物らしく。スルメイカは開眼目といって眼球が直接海水に晒されているので、言ってしまえばただの穴なのだが、一応目蓋と呼ぶらしい。
しんどかった腕
腕は辛かった。なんで10本もあるのか。2本くらいにしてほしい。イカの吸盤には角質環という黄色っぽいく歯のついた輪っかが嵌まっているので、その色を意識したビーズ選び。
実は中にプラスチックワイヤーを入れているので、ある程度姿勢を変えて保持できる。
触腕は特別大きな吸盤が付くので、それを表現するためのパーツ探しに時間がかかった。最終的に決めたこれは「花座」というらしい。
スルメイカの第Ⅲ腕には遊泳膜というバランスを取るための膜が付いており、それがかっこいいのでぬいぐるみにもつけてみた。
腹はファスナーで開く
解剖できるぬいぐるみというからには腹が割けないとどうしようもない。そこで考え付いたのがファスナー。まあ誰でも考え付くとは思うのだが、実現には結構苦労した。ファスナーって普通ミシンでつけるよね?
ファスナーは表生地(オレンジ)と裏生地(白)の間に挟むようにして取り付けた。まずは裏生地に白の糸で、次に裏生地とファスナーが食着いたものをオレンジの糸で縫い付けた。これが位置合わせが大変で。あとは解けづらく縫うために本返し縫いをしたのだが、これは気をつけないと裏側がすごく汚らしい縫い目になってしまう縫い方なのだ。構造上どうしても裏面が見えるので、細心の注意を払って縫った。
漏斗・漏斗牽引筋
総排泄孔である漏斗はイカのチャームポイントである。
海水や排泄物が逆流しないように中に弁が付いているので、それも再現した。
漏斗の根元の方には漏斗軟骨器という凹んだ軟骨部分があり、それが外套軟骨器という凸部分とかみ合ってスナップボタンのようにつけはずしができる。今回はそれを再現する気満々だったのだが、位置合わせに失敗して見送りになった。
漏斗牽引筋と呼ばれる漏斗を引っ張って動かす筋肉も再現。スルメイカのは弱々しいが、アオリイカの漏斗牽引筋は食べ応えがある。
循環器
イカには心臓が3つもあるので非常に面倒くさかった。縫い合わせるには各パーツが小さすぎる。エラの櫛状構造は刺繍で表現した。
生殖腺
このぬいぐるみはメスという設定なので、卵巣その他を成熟した状態で作り込んだ。ビーズで卵っぽさを表現。パーツ同士を縫うことだけでつなぎ合わせるのが地味に大変だった。
消化器
消化器はバリエーションに富んでいる割に作るのがそこまで大変ではないので楽しかった。もじゃもじゃしている膵臓とカタツムリみたいな盲嚢は刺繍で表現した。
盲嚢の刺繍は頑張ったので見てほしい。
裏返して背側を見せたところ。長い食道が見える。意外と食道を縫うのは楽しい。
イカは食道が頭の中を通っているので、それ用のトンネルも作った。ただ、細すぎてピンセットなどで食道を引っ張らないとトンネルを抜けられない。これは要改善。
脳と眼球
先ほど言った通り、イカの食道は脳を貫いているのでそこを再現した。カラストンビは本物。
なかなかの再現度ではないだろうか。
口周り
口は本当に反省が多いというか未完成と言ってもいいかもしれない。口球の形がなんか変だし、カラストンビは難しくて結局本物を埋め込む始末。口の周りの囲口膜というチャームポイントかつ重要ポイントも再現できていない。難しい。
ぬいぐるみの全貌はこんなところだろうか。
なぜこんなものを作ったのか
イカを趣味で解剖するにあたり解剖図を探していたのだが、なかなか細部まで書かれているものは見つからない。また、見つかっても平面図なので立体的な構造がよくわからない。
そこで、模型を作るつもりで解剖・観察してみようとねっとりじっくり写真を撮っていたら、行ける気がした。これ、作れるぞ。きっと私のようにイカの内臓の構造理解に苦しんでいる人がいるはずだ。そんな人いないかもしれないが、過去の私のために作ろう。これが2019年のことである。
なぜかぬいぐるみに手を出した
模型ならば紙粘土の方が明らかに楽なのだが、私の頭の中に浮かんだのはぬいぐるみであった。内臓を取り外しできるぬいぐるみがあったら最高ではないか? しかし、自分のこの思い付きにのちのち苦しめられることになる。
まず、粘土と違い、ぬいぐるみは平面である布を立体に起こすという作業が必要である。そのためには型紙が必要だ。リアルな形にするには複雑な型紙が必要だが、とりあえず同じ型紙を二枚重ねて縁を縫うというのを基本形にすることにした。
試作一号の製作
本物を下敷きの上に載せて型をとり、それをスキャンしてイラレで型紙を作っていった。イラレの操作もおぼつかないので非常に時間がかかった。 加えて、ただ布を重ねて縫うだけではどうにもならない部分をどのように再現するかを紙で試し、それでもわからなければ布を切って縫うという作業の繰り返し。他にも、部位によっては刺繍で表現したり、ビーズを縫い付けたりしたいとイメージだけは膨らむ。ともあれとりあえず形にしてみるか、と作ったのが試作一号だ。
写真も現物もないのが残念だが、これが見るに堪えない出来栄え。100均の材料と道具で作ったというのも多少はあるが、よく考えたら私は裁縫も刺繍もビーズも、中学だか高校だかの家庭科の授業以来、ほぼやっていない。ボタン付けはギリギリできるくらいである。これはまず鍛錬が必要なのではないか。
裁縫・刺繍・ビーズの訓練
試作一号製作の経験から、100均の材料と道具では限界があることが分かったので、ユザワヤの総本山である蒲田店に出向き、必要と思われる道具、材料を買い込んだ。ダイヤモンド会員にもなった。弘法は筆を選ばないかもしれないが、私は素人なので道具と素材の力を借りる必要があるのだ。それにしてもユザワヤのダイヤモンド会員はお得すぎる。定価6万円分くらい買い込んだのに4万程度で済んだ。
そこから半年は訓練の日々である。玉結びの仕方・糸と針の選び方から、なみ縫い、半返し縫い、本返し縫い、コの字閉じ、スナップボタンの付け方など、必要そうなものは全部練習した。刺繍は本を買って、一通りの図案を刺し、どの刺し方が使えそうか吟味した。ビーズ刺繍はそこまで深くやらなかったが、ビーズ用の糸が私の使っている鈍いハサミでは切れず、ピンピンの切れ味のハサミをわざわざ購入した。そんなことをしている間に半年経過していた。
試作二号の製作
試作二号は「本番を作るつもりで」というのをコンセプトにして、ぐいぐい作っていった。肝臓に銀色に刺繍を施したり、眼球の裏側に光沢のある青い刺繍をしたりしたが記事が固くなりすぎて断念するなど、試行錯誤の跡が見られる。
それでも何とか形にして、イカタコの研究者の方々があつまる「イカタコ研究会」に持参したら好評で、それがかなり本番へのモチベーションにつながった。
イカタコ研究会にも持ってきちゃった
— 佐野まいける (@_maicos_) October 13, 2023
みんな見て… https://t.co/VHSkVxWSDe pic.twitter.com/VlMGqyzVV2
まとめ
そんなこんなで製作したイカ解剖ぬいぐるみ。
初めてにしてはよくできたと思う。次はオスを作ろうと思うが、それが完成したら別の種類のイカにも挑戦したい。
売って欲しい等の嬉しい言葉をいただいたが、まったく同じものを作って売るとするとかなりの金額になるので覚悟してくれという感じ。廉価版を作れたら売ってみたいなという気持ちはある。
展示や販売についてお問い合わせがある方はこちらまで。
いつか何らかの形でこのぬいぐるみが世に出たらいいなと思う。