このところイカを解剖する機会が多かったが、そういえばタコの中身はどうなっているのだろう。イカと同じく食材としては身近だが、タコはイカのように生の丸ごとをスーパーで見かけることはない。
そこでちょうどタコを釣る機会に恵まれたので、手に入れたタコを解剖してみたら、あらびっくり。イカと似てはいるものの、やはり違う生き物だということを思い知らされた。そしてイカがイカに解剖しやすい生き物かということを改めて感じる結果となったので、気づいたことをメモしておく。
ぬめりがすごい
釣ってまだ数時間、表面の色素胞がうごめくうちに解剖を始めた。まずタコを扱ってわかったことは、とにかくぬめりがすごいということである。ほとんどぬめらないイカと違って、タコは解剖用に腕や体を整えるのも一苦労。
撮影のために片手ですべてを行っていたこともあり、タコの体勢が雑だが仕方ない。すべてはぬめりのせいだ。ちなみにこのぬめりはいったん冷凍してから洗うと嘘のように簡単に落ちるのだが、生のタコを解剖してみたかったのでぬめったまま続行。
腕に膜がある
腕は同じくらいの重さのイカと比べると太めの印象。そしてイカと違うところといえば、腕と腕の間に傘膜という膜があるのだ。これで獲物を逃さないらしい。悪役っぽさがあってなんかいいな。
吸盤はイカより優しい
イカより2本少ない8本の腕に並ぶ吸盤は、ぷにゅぷにゅとして柔らかい。イカは吸盤に角質環という歯の付いた凶悪な輪っかを付けているのに対して、タコの吸盤のなんと優しいことか。でも吸い付かれると肌にあとが残るくらい強力ではある(釣りの時に吸い付かれた)。
口はだいたいイカと同じっぽい
イカと同じくタコの口は8本の腕の中央にある。カラストンビという硬いくちばし状の口になっているのも同じ。ちょっと今回はタコのサイズが小さくてうまく写真が撮れなかった。
こいつはオスか?タコの交接腕
イカを観察するにあたって、私が楽しみにしていることのひとつに「交接腕チェック」がある。オスだけにある特別な腕をじっくりねっとり見つめて、秘められた交接の謎に思いを馳せる・・・至福のひと時だ。 タコにも交接腕があるというから、それは是非確認しなければならない。まずこいつはオスなのか?
タコのオスメスは交接腕を見なくても割とすぐわかると聞いた。吸盤が綺麗に二列に整列しているのがメス、がちゃがちゃとランダムに並んでいるのがオス、という見分け方だ。 この子はうーむ。どちらかというとランダムに並んでいるように見えるが・・・並んでいると言えば並んでいるし。タコ経験が浅すぎて断定ができない。
マダコの場合は右第Ⅲ腕が交接腕だというので観察してみた。
交接腕の先端は吸盤がなくへら状になっていると聞いたけれど、タコのサイズが小さすぎてよくわからない。ただ、左第Ⅲ腕と比べるとぽってりしており、吸盤もないように見える。「タコ 交接腕」と調べてみても参考になる画像がとても少なくてお手上げだ。たぶん、オスということにしておこう。
さて、次はいよいよ内臓だ。
タコは外套膜と頭が繋がっている
イカを解剖するのと同じように、腹側の外套膜の真ん中を縦にハサミで切る。左右にお腹を開こうとするとなんだか開かない。
よく見ると矢印の部分が繋がっているのだ。イカだったらスナップボタンがついている部分である。タコは繋がっているのか。背側ががっちりつながっているのは知っていたけれど、腹側にもこうして橋のようにつながっている部分があるとは知らなかった。
内臓が全然わからない
繋がっていた部分をチョキチョキと切り取って内臓を露わに。この瞬間が一番興奮するよね。内臓を一つずつみてみよう。うん、わからない。イカもタコも似たいようなもんだろうと思っていたけれど結構違うのね。 そのうえ、内臓同士が薄い膜のようなもので結構しっかりくっついているので、イカのように簡単にバラけてくれなくて、片手カメラの状態では観察が難しかった。
エラははっきりわかるけれど、その基部にあるはずのエラ心臓が見当たらないし(透明で見えなかっただけかも)、中央の心臓も見当たらないし、オレンジ色のもやもやも謎だ。するめイカだったら膵臓にあたるところだとおもうが確信が持てない。
胴の先端の生殖器はたぶん精巣だと思う(卵巣はもっと黄色っぽくて透明感があったような気がするが怪しい)。漏斗側に開いている管はたぶん直腸だと思うのだけれど、もしかしたら陰茎かも。片手での観察は結構無理がある。
ちょっと雑な感じで内臓をめくってみると、肝臓と墨汁嚢が現れた。イカと違って墨汁嚢がぴったりと肝臓にくっついているから、かなりの神業でないと切り離せない。タコスミはイカスミよりアミノ酸豊富で旨いらしいけれど、食用に使われないのは取り出しづらいからじゃないかな。
そしてエラ付近に現れた小豆色の豆のような物体。左右にひとつずつあるけれど、これはいったい何だろう。鳥の腎臓っぽいかんじ。
タコの解剖図はぜんぜんない
謎の内臓たちが気になって、ネットで「タコ 解剖図」「octopus anatomy」などで検索してみたが、出てくるのは横から見たイラストばかり。腹側から開いた解剖写真や図はほぼなくて全然参考にならなかった。イカもスルメイカ以外は全然ネットに情報がないけれど、タコと比べれば恵まれていたのだなぁ。
エラなどを取り去ったら、胃が出てきた(たぶん)。その横にカタツムリみたいな器官があったのだが、これが盲嚢なのか貯精嚢なのかあるいはまた別のものなのかよくわからなかった。謎が多いぞ、タコ。
タコよりイカのほうが解剖しやすい
釣りの後で疲れていたこともあり、この辺で解剖を終了。楽しませてもらいました。いやータコを解剖して分かったけれど、やっぱりイカって凄く解剖向きの生き物だったんだな。
・イカはぬめらない、タコはぬめる ・イカは外套膜がスナップで取り外しやすい、タコは繋がってるから切らなきゃならない ・イカは内臓同士が離れやすい、タコは膜が丈夫で切り離しづらい ・イカは墨袋が取り外しやすい、タコは墨袋外せないので事故るとやばい ・イカは解剖図が豊富(スルメイカに限る)、タコは解剖図ない
適当な解剖だったけれど、すっかりタコにも愛着が湧いてしまってもっと知りたくなってしまった。買うだけ買ってまだ手を付けていないタコの本、読んでみよう。タコの内臓の情報をお持ちの方、ご連絡お待ちしております。