イカ絵本『イカイカレース』のすすめ(イカ好きの視点から)

今年の6月に出た、海中絵本作家しおだまりんさん著の絵本『イカイカレース』について書く。

タイトル通り、イカたちがレースを繰り広げるというシンプルな話なのだが何度でも読みたくなる絵本だ。パキッと元気な色づかいで描かれたイカたちの様子は、どのページも額に入れて飾りたいくらい。子供から大人まで、特に生き物好きの方にはグッと刺さる絵本だと思う。今更私が勧めるまでもないだろうと思いつつも、いちイカ好きとしての偏った視点から見どころを紹介してみよう。まずは書影とあらすじをどうぞ。

(著/絵:しおだ まりん/ 発行:たこのまくら書店

あらすじ: イカのこどものいっちゃんとかっちゃんが、イカおうこくのおうさまをきめるイカイカレースにちょうせんします。まわりには、なにやらあやしいイカたちがいっぱい. . . 。はたしていっちゃんとかっちゃんは、レースでかつことができるのでしょうか? 販売サイト:

https://takonomakura.stores.jp/




はい、もうこの表紙だけで既に最高。
中央の2匹は主人公であるアオリイカの子ども、いっちゃんとかっちゃん。そしてその周りには・・・多彩なイカたちの姿が!
イカが出てくる絵本はそこそこの数あるが、イカが主人公となるとまだ少ない。また、主人公以外はイカではない生物であることが多い(よくタコと仲良くしている)。しかし『イカイカレース』に登場する生き物はほとんどがイカで、なんと10種類以上ものイカたちと出会うことができるのだ。イカ好きなら、表紙に描かれているイカの種類を当てることができるのではないだろうか。

「いや、自分はイカに詳しくないからよくわからない」というあなたは、表紙をめくって見返しをご覧ください。物語の中の1シーンを切り取って、出てくるイカの種類をすべて教えてくれている。(下記ツイート画像左上)



「イカ」という一言で500種もの多様な個性を一括りにされることに寂しさを覚えているイカ好きとしては、こんな絵本が作られたことが本当に嬉しい。

一種類のイカにフォーカスした絵本ならこちらがおすすめ。コブシメの生活史を丁寧に描いた作品で、見開きの交接シーンは圧巻!「世界のイカ」付録付き。




さて、ここから先はネタバレ全開になるが、ミステリーやどんでん返しがある話ではないのでそこまで問題はないかなぁ。 心配な方は『イカイカレース』を一度読んでから、この続きを読むのをおすすめする。(あるいは2週目に。是非そうして欲しい。「絵」本なので文章で伝えるのは限界がある)



見どころ その1 ハチマキの位置

主人公のいっちゃんとかっちゃんは、名前の頭文字を書いたハチマキを締めている。ここで注目すべきはハチマキの位置である。よく頭だと間違われがちな胴の部分ではなく、目の上にしっかり締めているところにキュンとする。胴に巻かれたハチマキ(腹巻だけど)もかわいいけどね。

スルメイカの全身写真。部位の名前を解説しているもの。
イラストでハチマキを締められがちなところは実は胴

見どころその2 イカたちの口の表現

イカイカレースに登場するイカたちは、実に表情豊か。イカたちの感情はその大きな目、そして口の様子で表現されている。 ここで、イカイカレースでの口の位置に注目していただきたい。大きな目と目の間、眉間のあたりに口が描かれている。そう、これは実際のイカの口の位置と同じ!(実際は腕に包まれているが、透かして見たらこの位置になる) 口がなかったり、思い切って外套膜に描いちゃったりしているイラストが多い中、これはなかなか画期的だと私は思っているのだが、イカ界隈のみなさんどうですか。

スルメイカの口(写真中央の丸いところ)

アオリイカのように透明度が高いイカの場合は、たまに茶色いクチバシの部分が透けて見えるときがある(下記の写真ではうまく撮れていない)。イカイカレースでもまさにこの位置に口が描かれているのだ。かわいい!

アオリイカの写真で口の位置をマークアップしたもの
黄色く丸を付けた部分がアオリイカの口の位置(腕で包まれている)

見どころその3 各種イカたちの外形・生態の特徴をとらえた表現

イカイカレースでは脇役たちの様子も見逃せない。ただの添え物として存在しているわけではなく、それぞれの種のリアルな姿が描かれている。
例えば・・・

  • コブシメ

  オスのコブシメたちが1匹のメスをめぐって威嚇しあっているポーズは本物そのままだし、オスとメスの模様の違いも素敵。

  • ソデイカ

 ペアで寄り添う姿と鮮やかな卵塊がリアル。ソデイカは2匹で行動することが多く、夫婦烏賊の異名を持つ(ただ、必ずしもオスとメスのペアではないらしい)。卵塊の色はデフォルメしてあるわけではなく、本当にこのショッキングな色! 私もいつかは生で見てみたい。

  • トビイカ

 その名の通りの得意技を披露してくれている。目の上のエメラルドグリーンのアイシャドウは発光器ではなく構造色らしい。

他にも色んなイカが出てくるので、現実ではどんな姿かな?どんな生態かな?と調べて見比べるのもおすすめ。今の時代は動画もたくさん出回っているので、これを入り口にイカ沼にはまってほしい。

見どころその4 隠れイカ、イカ以外の生き物たち

  イカそのもの以外にも楽しめる要素がたくさんあるのも魅力的だ。
人工物の中にイカのモチーフが隠れていたり、墨の形に工夫が合ったり。カニや魚も実際の種が出てくるので、海の生き物と仲良しの人は名前もわかるはず。同じ種類のイカでも1匹1匹表情やポーズが違って、何度読んでも飽きない。実際に海に潜って、生き物を観察し続けているしおだまりんさんだからこそ、描けた作品なのだと思う。

「イカイカレース」はここで買えます

私のぼやけた頭で書いた文章では伝わらないかもしれないが、本当に素敵な絵本。老若男女に読んで欲しい。あと、紙質が良い。同人誌を作っている身からすると、フルカラーでこんなに良い紙でこんな価格で良いんですか?!と驚くばかり。

ここまで読んでおいて、買わないという人もいないだろうから(いないよね?)、リンクを貼っておきます。 takonomakura.stores.jp

この素晴らしい絵本が、多くの人に読まれますように。そして、新しい絵本がまた生まれますように。