イカで正月飾りを作りたい。
最近、野草好きの友人が野草でリースや正月飾りを作っているのを見かけて、私もやってみたいと思ったのだ。
冬の多摩川野草会
— のん🍀365日野草生活®️多摩川野草会代表 (@365nitiyasou) 2019年12月1日
~野草リース、野草お正月飾り~
参加者さんの作品の
個性が溢れて止まらない#多摩川野草会 #野草リース #野草お正月飾り pic.twitter.com/V9Xl0t90yJ
どうせ作るなら、ただの真似ではなくて自分の好きなもので作ってみたい。 私の好きなもの、それすなわちイカである。
クリスマスももう終わるし、今から作るなら正月飾りがいいだろう。作るなら…そうだな、イカは生ではなくて干したスルメを使うほうが日持ちして良さそうだ。
スルメは「寿留女」と当て字され、古くは神様へのお供え物であったくらいの縁起物である。ますます正月にピッタリじゃないか。スルメの他にもイカの加工品は色々とあるから、組み合わせて好みの形が作れそう。ふふ。楽しくなってきた。
そうだ、飾り終わったら「お焚き上げ」として火であぶり、食べて楽しむこともできるぞ。なんてことだ。日持ち・めでたさ・美味しさ、イカは全てを兼ね備えている。どんな材料よりも、イカこそが正月飾りの材料にふさわしいという気がしてきた。この素晴らしいアイディアを早く形にしなくては。早速準備に取り掛かろう。
二木の菓子はイカパラダイス
勢いのままに上野アメ横へやってきた。なぜアメ横かって?正月を迎える準備はアメ横でするものと相場が決まっているからだ。
というのは後付けで、実は材料の仕入れ先のアテがあるのだ。 やってきたのは「ニキ、ニキ、ニキ、ニキ、二木の菓子」のCMでおなじみ、二木の菓子。この世のあらゆる菓子があると言われている菓子問屋である。
イカを買うのにお菓子やさんとは不思議に思われるかもしれないが、なんでも揃う二木の菓子では乾き物も扱っていて、乾き物界四天王の一角を担うイカも当然置いてあるのだ。と、言いつつもかなり昔の記憶を頼りにしているのでちょっと不安・・・
と、店へ足を踏み入れるやいなや、目の前の棚からイカがお出迎えしてくれた。これは心強い。
いか焼きに誘われて棚の左右を確認すると、出るわ出るわ。ここは菓子屋ではなくてイカ屋なのではないかというほどのイカおつまみ充実度に驚愕!
でっかい棚まるごとほぼイカである。うっひょー!めちゃくちゃ興奮してきた。よくぞこんなにイカを集めてくれた。二木の菓子よ、ありがとう。感謝の舞を捧げたい。これだけの種類のイカおつまみが発売されているということは、イカが人々に愛されていることの証だろう。イカ好きとして大変誇らしい。
このイカパラダイスをじっくり満喫し、正月飾りにふさわしい珠玉のメンバーを選びたいところなのだが、この日は前後に予定を詰めすぎて、15分くらいしか時間がなかった。これから具現化する正月飾りの像が私の中で焦点を結ばないまま、とりあえず目についたものをカゴへ放り込んでいく。
結局4000円分くらいのイカおつまみを購入。なかなか高級な正月飾りだな。よく考えたら二木の菓子は問屋なので、一袋の量が業務用で多いのよね。色んな種類を少しずつ欲しい私にはちょっと合わなかったかなと今更ながら思った。まあ、楽しかったからいいのだ。
正月飾りはしめ縄がポイント
材料が揃ったので、いよいよ制作に取り掛かろうと思ったのだが、どうも正月飾りの具体的な姿が思い浮かんでこない。街中でよく見かける気がするけど、興味がなさすぎて記憶の中のその姿はおぼろげだ。
目指すイメージがあいまいでは良いものは作れないだろう、ということで日を改め、ヒマそうだった母親を連れてイオンに来た。でもクリスマス前なので正月飾りはあんまり置いてないかな~なんて思っていたら、大間違い。怒涛の勢いで正月飾りが売り出されていた。
種類がありすぎて笑ってしまう。事情を知らない母親は、そんな私を不審そうに見ている。毎年正月飾りを購入している彼女にとっては当たり前の光景らしく、冷静に価格を見比べながら自宅用の正月飾りを選んでいた。
あまりの種類にたじろいでしまったが、よくみると共通点がある。しめ縄だ。どの正月飾りにも必ずしめ縄が使われており、後はおめでたい飾りを自由に配置してあるようにみえる。なんだ、そうと分かれば怖くない。しめ縄さえ作ってしまえばこっちのモノだな。イカの何でどうやって作るのか全然わからんけど。
正月飾り、もう完全にわかったような気分だが、念のため参考写真をパシャパシャと撮っていたら、母親から「何してんの」と質問された。「イカで正月飾りを作るから参考にしようと思って」と堂々と答えると、「意味が分からない。なんでそんなことするの」と返されてしまった。なんでこんなことしているんだろう、私。
クリスマス・イブは正月飾り作りで過ごそう
母親のひと言で一瞬我に返ってしまったが、家にある大量のイカおつまみを見ることでテンションを取り戻した。イカの正月飾りだぞ。好きなもので迎える正月なんて最高に決まってるじゃないか!
イカ正月飾りを作る時間ができたのは、2日後。クリスマス・イブであった。だがそんなことは私には関係ない。みんながチキンだサンタだと浮かれている間にも、着々と正月は近づいているのだから。というかこの日を逃したらもう正月まで飾りを作る日なんてないのだ(忘年会につぐ忘年会)。
とりあえず、イカのおつまみをテーブルに並べてみる。
全9種類のイカのおつまみが勢ぞろい。あと1種類追加してイカの足の数と同じ10にすればよかったかな。この中でひとつだけ仲間はずれがいるのだが、それは最後わかります。
いかそうめんでしめ縄を作る
さて、何から始めようか。やっぱり事前にリサーチした通り、正月飾りの肝となるしめ縄から作るのがいいだろう。この中でしめ縄になりそうなもの・・・いかそうめん、君に決めた!
まず、束ねたいかそうめんの端をビニールタイでまとめ、動かないように瓶で重しをする。そして束を2つに分け、まずは片側からぐるぐると右向きにねじっていく。
いかそうめんの弾力がなさ過ぎて、ねじった先からバッキバキに折れていく。悲しい。聖夜に雪ではなくて私の悲しみが降り積もる。やはり、いかそうめんでしめ縄作りは無謀だったのか。いや、あきらめるのはまだ早い。いかそうめんならもう一種類あるじゃないか。
もう片方の種類のいかそうめんはちゃんと弾力があり、しっかりねじることができた。さすがはさっきのやつより高いだけある。あとはひたすらねじねじしていけばいいのだが、ご覧の通りいかそうめんはとても短い。丸いリースのようなしめ縄を作りたいから、30cmくらいは欲しいんだよな。
そこで、いかそうめんを少しずつ継ぎ足しながらねじるという方法で解決した。つなぎ目は少し荒れるけれど、無理やりねじれば何とかつながる。2本目をねじるころにはコツもわかってきて、なんだか楽しくなってきたぞ。もしかして私、いかそうめんしめ縄職人の才能があるんじゃないかしら。
いかそうめんを継ぎ足してつなぐところが難しかったが、あとは驚くほどスムーズにできた。多分もう一回やったら売れるレベルのやつが作れる。買う人がいるのかは知らんが。
初めて、しかもいかそうめんで作ったにしてはまあまあの出来栄えではないだろうか。正月飾りの要とも言えるしめ縄ができあがったのだから、この勝負勝ったも同然。あとはウキウキの飾りつけだ!
飾れども飾れども、めでたくならない
しめ縄までは旧来の正月飾りのスタイルに従ったが、ここからは私の自由形。オリジナリティを出しながら飾りつけをしていこう。なるべく姿形にバリエーションを持たせて選んだつもりだから、ホイホイと置いていくだけでも見栄えがするに違いない。
ここまでで全体の約半分、4種類のイカおつまみを使った。さらっと書いたが、つけたはずのゲソがバラバラとこぼれ落ちたり、するめをどうやって取り付けるか試行錯誤したり、あたりめの処遇に悩んでこねくり回したりと、作成開始から既に1時間以上経過している。
そろそろ、正月飾りとしての風格が出てきてもいい頃合いだが、どうだ。
どうにもこうにも、地味である。なぜなんだ。本物の正月飾りと何が違うというんだ。いや、何もかも違うんだけどさ。
・・・色だ。全体的に茶色すぎる。昔私が作った揚げ物オンリーの弁当くらい茶色い。本物の正月飾りは茶色なんて使われておらず、紅白や金色がふんだんに使われている。めでたいイメージがあるエビとかカニは赤いし、かまぼこは紅白だし栗きんとんは黄金色。これがみんな茶色かったら、めでたくないだろう。めでたさとは色だったのだ。
今更どうにもしようがない事実に気づいてしまった。これが生のイカだったら紅白の「白」はクリアできたし、食紅で色を付けるという選択肢もあったろう。しかしここにあるのは茶色く乾いたイカ加工品。これで戦うしかない。
こじつけのめでたさを考える
それでもまあ中盤までは来たんだからと休憩にTwitterを見ていたら、クリスマス・イブを祝う楽し気な食卓の様子がたくさん流れてきて、思わぬダメージを食らってしまった。いったい私は聖夜に何をしているんだろう。
我に返ったら負けだ。これが私のクリスマス。大好きなイカに囲まれて幸せだよ。自分に言い聞かせながら続きを作っていく。
それにしてもこのイカトンビ、かなり大きくて格好いい。イカはこの鋭いくちばしで、固い殻のあるエビなんかもバリバリ食べちゃうすごいやつなのだ。イカトンビはその鋭さから、正月飾りにつけるとその年の悪縁を断ち切ってくれると言われている。(嘘です)
色によるめでたさが皆無なので、せめて何かそれらしいいわれをつけようという思いだ。
ホタルイカはその小さい体で600mもの深海から海面まで、たった半日程度で移動するパワー系。正月飾りにつけると一年健康で過ごせると言われている。なーんて頑張っていわれを考えてみたが、言い訳じみたこじつけが己の頭の中を淋しくこだまするばかり。
でもこのホタルイカは買ってよかったな。正月飾りに花を添えている気がする。イカは世界に500種類もいるのに原材料名には大抵「イカ」としか書かれない哀しい生き物だが、このホタルイカは必ず「ホタルイカ」と名前を呼んでもらえるスターなのだ。
最後の最後になって、めでたい赤色の酢いかの存在を思い出したが、もう酢いかの入るスペースがない。仕方がないので食べた。すっぱい。
完成したイカ正月飾り、致命的な問題とは
こうして2時間以上の時間をかけて、私のイカ正月飾りが完成した。
色味は全体的に茶色で地味ではあるものの、下方に刺したよっちゃん丸がなんとなく本来の正月飾りの基本形を思わせ、めでたさが漂っている。自然派志向の家庭の玄関とかに飾ってあったら結構馴染むんじゃないか。
よくみると私の美術センスがないことがうかがわれるが、一応形にはなっている。
ただ、このイカ正月飾りには致命的な欠点がある。くさいのだ。イカおつまみの封を開けた時点からうすうす気づいてはいたのだが、めちゃくちゃイカくさい。典型的なスルメの匂いに、イカトンビのちょっとすっぱい匂い、そして一番強烈なのはホタルイカの肝の独特なニオイ。
正月飾りは年神様を迎えるために飾ると聞いたけれど、こんな正月飾りが玄関にぶら下がっていたら年神様も鼻をつまんで逃げてしまうだろう。イカは正月飾りに最適!とか言っていた自分をそっと諭してあげたい。イカはくさいよ。
上手にできたら来年まで玄関に飾って、頃合いを見て食べようなんて思っていたけれど無理だ。多分神様より先に虫が寄ってくる。というわけで、このイカ正月飾りはジップロックへしまって、年末年始の酒の肴に少しずつ食べることにしたのだった。
大成功、とはいかなかったイカ正月飾り。でも楽しかったからまた来年もやろうかと思う。淋しいから次はイカ好きの友達を集めてやろう。
イカ好きもそうでない人も、良いお年を。