最近こちらのブログに頻繁に登場する365日野草生活さんは、毎月ご自身で野草に関する何らかのイベントを主催されている。
今年の6月のテーマは「セイヨウカラシナで粒マスタードを作る」。
春に柔らかい葉を食べることができるセイヨウカラシナは、5月下旬から6月上旬になると小さな丸い種をつける。 その種がマスタードシードと呼ばれ、マスタードの素になるらしい。
手作りマスタード・・・ウィンナー・・・ビール・・と妄想を膨らませていたら、今回はTAMAGAWA BREWとのコラボ会で、植物観察、マスタードシード採取からマスタード作り、ウィンナー&クラフトビールまでの全てを楽しめるらしい!これは参加しない手はない、ということで行ってきた。
野草を楽しむ心得
365日野草生活さんの観察会は食べられる植物についての具体的な解説が多くて楽しい。
「ドクダミを『天ぷらにして食べる』なんて書いてある本がありますが、実際は揚げると香りは飛ぶけれど、酸っぱいし、口内で溶けて美味しくないです」とか、 「『カキドオシはおひたしで』と書いてある本が多くあるけれど、毛が舌にチクチクするし、香りが強すぎて美味しくないです」などなど。 (※お名前長いので、以下、通称の「のんさん」と呼ばせていただく)それは、のんさんが本当に毎日野草を食卓にあげているからこそできること。「365日野草生活」の看板に偽りなしである。
ただし、のんさんのように野草を楽しむには、ある程度の知識とマナーが必要だ。「この草食べられますよ」と聞くとついテンションが上がって先走ってしまいがちな我々初心者の気持ちをよくわかっているのんさんは、会を始める前に野草を楽しむ心得を教えてくれた。
来年のために必要以上に取らない、欲張らない
自然から分けてもらっている自覚を持とう。自分だけちょっぴり欲張ったつもりでも、例えば会に参加した20人が同じことをしたら影響は20倍。目当ての植物を見つけても、同じ種類のものが近くにたくさんあるのかどうか良く確かめて。もし最後の一株を採ってしまったら、そこにはもう二度と同じ植物は生えなくなってしまう。
除草剤、農薬、排気ガスに気を付ける。コンクリートの隙間、道路わき、線路わき、公園(私有地)の野草は採らない
食べる人の安全のためとルール遵守のため。 野草は野菜のように安全管理された食べ物ではない。自分の身は自分で守る必要がある。 また、私有地は当然、公園での採取も禁止されていることがほとんど。 ルールを守らないと自分だけでなく同じように野草を楽しんでいる他の方々にも迷惑をかけてしまう。
分からない植物を採らない、食べない、人にあげない
自分が知らないだけで毒がある植物はその辺に結構生えている。園芸種でも毒草はある。 中には触っただけで害があるものも。その上、食べられる植物とそっくりな毒性植物も多い。 自分の同定(種類のみきわめ)に自信がなければ、採らない、持って帰らない。 分からないのに試しに口に入れてみたり、人にあげるのはもってのほかだ。
なるほど、採取禁止等のルールが場所に明記されていれば皆それを守るだろうけど、食欲に負けてついたくさん採ってしまったり、危機感が薄れてその辺の謎の草を触ってかぶれたりなんかは結構ありそうだ。ワイルドを気取って毒草を食べたりして命を落としてしまっては、笑い話にもならない。気を付けよう。
同定力を高めよう、多摩川植物観察
心得が分かったところで、早速多摩川へ繰り出そう。 本命のカラシナのところへ行く前に、まずは多摩川に生えている植物の観察をする。
これはイタドリというタデ科の植物。 スカンポって言ったら知っている人も多いかも。味は、すっぱい。 新芽をジャムにしたものを頂いたことがあるが、それは甘酸っぱくてとても美味しかった。
のんさん「葉っぱのつき方を見てみましょう。葉っぱは仲良しですか?そうでもない?」 仲良しってなんだろう、と思ったら、葉のつき方のことだった。表現がチャーミング。 イタドリの場合を見ていると、茎の一つの節に一枚だけ葉がついて、それが互い違いになっている。 こういうのを「互生」(仲良しでない)というそうだ。
なるほど。それでは仲良しというのはどういうことか。 紫色の花が可憐な外来種、アレチハナガサを見てみると今度は一つの節から二枚の葉が向き合うようについている。 これが「対生」(仲良し)。他にも、一つの節に三枚以上の葉が茎を囲むようにつくのを「輪生」というんだって。
こんな風に葉のつき方一つを見ても、植物によって全く異なることが分かる。 そして、「互生」「対生」「輪生」といった用語を覚えることで、知らない植物を図鑑で調べたり人に尋ねる時に大変便利になるのだそうだ。
他にも葉の形、葉に柄があるかどうか、茎の断面の形、毛の有無、花の色や花びらの数など植物を見分ける力(同定力)を高める知識を次々と教えてくれた。 「はい、ではさっきも出てきた、葉っぱが仲良しなことを何というでしょうか?〇〇さん!」 と、突然さっき習ったことを答えさせられるというちょっと学校っぽいやり取りもあったりして、笑いが絶えない観察会だ。
キクイモはその名の通りキク科で、塊茎というイモのような食べられる塊を地中に作る。小さなひまわりのような花が咲くそうだ。葉は対生、茎に細かな毛が生えている。 以前キクイモの醤油漬けを頂いたことがある。ショリショリした食感が楽しかったな。地上の姿は初めて見た。
黒く熟すと甘くておいしい桑の実も多摩川で採れる。 桑の葉は深い切れ込みがあるものとないものが不揃いに入り混じっていて、若い木は比較的葉の切れ込みが深く、年を取ると切れ込みのない丸い葉が多くなる傾向にあるなんて話も教えて貰った。 年を取ると丸くなるってなんだか人間みたいだね。死ぬまで尖ったままの人もいるけど。
多摩川に生えている毒草もひとつ、教わった。 トゲトゲで攻撃力の高そうな青い果実が目を引くこの草は、ケキツネノボタン(おそらく。同属のキツネノボタンかも)。どちらにしても花は黄色くてこんなに可愛らしいのに、茎や葉の汁に触れるとかぶれてしまうそうだ。
セイヨウカラシナの種(マスタードシード)取り
一通り観察が終わったら、本日のテーマ植物「セイヨウカラシナ」を採りに行く。 この日は梅雨入り前の夏日で皆すっかり汗ばんで早くも体はビールを欲していたけれど、メイン食材を採らなくてはまだ飲めないぞ。
セイヨウカラシナは大根やキャベツと同じアブラナ科の植物。見た目は菜の花とそっくり。 それが5月末から6月初旬になると種の季節になり、写真のような種サヤをつけるのだ。 この細長いさやの中に丸い種(マスタードシード)が入っている。
さて、これをどうやってとるのか。 色んな採取方法があるが、のんさんおススメは効率的でかつ植物に優しい、袋かぶせメソッドだ。 サヤに大きめのビニール袋などをかぶせ、そのまま袋の上からパフパフと袋を優しく叩く。 すると十分に熟した実とサヤは袋の中へ落ち、未成熟の種はそのままサヤごと残るらしい。
一つの株から種を取り終えたら次の株へ、パフパフ、パフパフ。 種がどんどんビニール袋へ溜まっていくのがうれしい。 中には大きなゴミ袋を持ってきてすごいスピードで採取する猛者もいた。 種取りをする時間帯によっては、蜘蛛や昆虫などの小さな生き物が混入することもあるというが、今回はほぼ招かれざるお客さんは入ってこなかった。
15分程度で、十分な量の種が集まった。 な~んだ、楽勝じゃん、さて、ビールビール・・・なんて思っていると、 「皆さん、採取お疲れ様でした。さて、ここからが一番大変です!」とのんさん。 え~まだビール飲めないの~?・・・なんちゃって。イベントのメインはここからですよね。
マスタードシードをマスタードにする
TAMAGAWA Brewのタープの日陰へ移動して、マスタードを作る工程でもっとも大変な「ゴミ取り」を行う。 採ってきたマスタードシードにはサヤやサヤくずなどの小さなゴミが入っているので、それを手作業で取り除かねばならないのだ。
ここからは20名ほどの参加者を4つのチームに分けて協力プレイ。 どんな方法でごみを取り除くのか、チームの色が出るところだ。 目の粗さの異なるザルを駆使するチーム、あおいでゴミを飛ばそうとするチーム、などなど。
私が配属されたAチームは最初は何か楽な方法はないかと色々と思案したけれど、結局は最も地道な方法「軽いごみはブロワーで吹いて、あとはピンセットで一つずつ取り除く作戦」を選んだ。
取れども取れども湧いて出てくるような気さえするゴミ。 しかしこの作業なくしては美味しいマスタード(とビール)にはたどり着けない。 集中して取り除いたゴミが、風でまた中に入ってしまうハプニングで一気に脱力したり。
精密なピンセットを持っていて本当に良かった。 お腹空きましたね、暑いですねなんて言いながらも決して手を止めない勤勉なAチームメンバーのおかげで、制限時間内にこれ以上ないほど完璧にゴミが取り除かれた!
よし、ゴミは取れた。この後どうするんだ、と身構えていたらのんさんがおもむろに解説を始めた。
「ゴミ取りお疲れ様でした。マスタード作りは、ゴミさえ取れればとっても簡単~ 材料はマスタードシード、酢、塩、はちみつだけです~!」
「分量は・・・てきと~!」
そういいながらマスタードシードにドボドボ酢を入れていくのんさん。
「てきと~」※塩追加
「はい、てきと~」※はちみつ追加
「てきと~、でも大丈夫、何度も試したけれど、ちゃんと美味しくできます!」
後はこれを消毒した瓶に詰めて常温で3日間置き、好みの状態にすりつぶして更に1週間馴染ませたら完成だそうだ。 マスタード作りはこれでおしまい。 その場で作ったマスタードは各自持ち帰って、この日は事前に用意してくれていた手作りマスタードとウィンナーなどの食材をみんなで食べさせてもらえることになった。
「それでは、いただきマスタード!」
ダジャレ大好きのんさんの合図で、待ちに待った昼間のプチ宴会開始。 ウィンナー、参加者のかたが持ち寄ってくださった手づくり野草パン、お漬物、ポリヤル(南インド料理)などが並び、食べきれないほど豪華な食事になった。 お皿は前日に採ってきた、アカメガシワなどの大きな葉を使用してかわいらしく。 TAMAGAWA Brewの良く冷えたクラフトビールも日差しにさらされた身体に染み渡る。
野生のセイヨウカラシナで作ったマスタードの味は、普通のマスタードよりちょっと刺激的だ。 ウィンナーとベストマッチ!ビールが進む進む。 ハーブやはちみつを加えてオリジナル感を出しても楽しそうだな。
それにしてもゴミ取りは大変であった。 マスタードに限らず、野草は買ってくる野菜と違って食卓に上がるまでにかなり手間がかかる。 しかも珍重されている一部の野草(コゴミなどの山菜など)を除いて、だいたい野菜より美味しくなかったり食べるところが少なかったりする。 そりゃ当然だよね。美味しく便利に食べるために野草の品種改良を行ったのが野菜なのだから。 のんさんの影響でいくつかの野草を自分で食べてみてまず思ったことは、「野菜って便利で美味しいんだな」である。
毎日野草を食べているのんさんに「野草って野菜と違って食べるの大変ですね。毎日やってるなんてすごい」と言ったら、「そりゃそうだ!私のは趣味だもの!あっはっはー!」と笑っていた。人って好きなことだと手間さえ惜しまなくなるというか、手間こそが愛しくなるのよね。わかります。
野草を探したり、観察して同定したり、下処理の手間、クセを活かして美味しく食べる工夫など、野草を取って食べるのは大変だけど楽しいということを教わりました。 興味がある方は、365日野草生活(のんさん)のTwitterでイベントの告知があるのでチェックしてみてはいかがでしょうか。
持ち帰ったマスタードはまだ冷蔵庫に眠っている。 今度自家製ソーセージを作って合わせてみよう。