葛の根から葛餅をつくったよ

「葛餅を葛の根を掘るところから手作りしてみたいなぁ」という弱めの欲求が昨年、意識の底の方をずっと流れていた。

葛餅を作りたいだけなら本葛粉を買って来れば済むのだが、そういう話ではない。 自分が食べているものの元の姿を見て、触って、嗅いで、自分で作ってみたいのだ。

特に、食卓に並ぶ姿からは元の姿がまるで想像つかないようなものがいい。 こんにゃくとか。幼い頃は勝手にゼリーやグミの一種として分類していたが、まさか芋とは。 子供の頃のこういう勘違いってよくあるよね。

ちなみにさのくに氏は、たくあんの正体は海藻だと思っていたらしい。コリコリしていて半透明だからだそうだ。 たくあんはあれ1本が一つの海藻であり、海底に根を張っているのを収穫してくるのだと信じていたんだと。なんだそれ。 私もどうせ勘違いするのならこういう可愛げのある勘違いをしたかった。

なんの話でしたっけ。そう、葛ね。

葛の根を掘る方法について調べると、どうも一人で掘るのは骨が折れそう。
誰か一緒に葛の根を掘って(あわよくばリードして)くれる人いないかな、と思っていたら、ちょうど葛の根を一緒に掘りましょうというイベントの募集を見かけて、参加させていただくことにした。 イベントの主催者は、自分で野草を摘み、毎日のように食べている365日野草生活さん。
先日ロゼット観察に連れて行ってくださった方だ。時系列的には葛掘りの方が先だけど。

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葛の根を掘る

「ハードな仕事になりますよ、掘っても葛の根は採れないかもしれないですよ」と事前に忠告されていたこともあり、 参加者が少ないのではないかと思っていたが、いざ当日を迎えると20名以上の方が集まっていた。 もしかして、みんな密かに葛の根を掘りたい願望を抱えて生きてきたのかな。

365日野草生活さんの案内で葛の自生地に到着。
わんさわんさと葛の葉が生い茂っている。

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これが葛の葉。また掘るかもしれないし、覚えておこう。

葛の根から葛粉をとるには、でんぷんをたっぷり蓄えている太った根を選んで掘らなくてはならない。 最低でも地上のツルの太さが直径5cm以上あるものを探しましょうというアドバイスを聞いて、太そうなツルを探していく。

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このツルではまだまだ細い

この太いツルがなかなか見つからない。
他の参加者の方が太めのツルを見つけて掘りだしたので覗いていると、直径4cmほどの根が出てきた。 これは結構いい感じなのでは?と一緒に掘っていたメンバーは沸き立ったが、 365日野草生活さんに確認してみると、「全然細いですね!!」と爽やかに言われた。

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結構イケてると思ったけど、これでは細いらしい(スコップの右下のやつ)

さすが、厳しい条件の葛の根掘りに自ら参加したみなさん、怯むどころか更に積極的に太いツルを探しては掘り進めていく。 私はあまりまともな装備を用意できていなかったので、しばらくは応援係をやっていた。

持って行ったのはおもちゃみたいな三又クワとチリトリ。チリトリは、あまり使いどころをイメージせずになんとなく持って行った。

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このチリトリがまさか活躍するとは。

だがこれが途中から役に立ったのである。
葛の根はまっすぐに一本下に向かって生えているのではなく、地下ネットワークのように分岐しながら横に向かって入り組みながら生えていた。 根が露出するまでは大きな道具のほうが活躍するが、そのまま分岐の部分を掘ると根を切断してしまう恐れがある。 そこでこの小さなクワとチリトリで根の周りの土を丁寧に掻き出していくのだ。
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ようやく役に立てて張り切るわたし。

これがまぁしかし、根が色んな方向に分岐していくだけで一向に太くならない。 私は久しぶりの土遊びに興奮してはしゃいでいたが、慣れない屈伸運動の繰り返しで右の股関節あたりに違和感が出始めていた。
そんな時、別のチームから「イモがでたよ!」という声が上がった。
これは今までとは違う!ふっくらしたイモ型の根!

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控えめなサツマイモっぽい

でんぷんをとるには、このようなイモ状の根がよいらしい。
端の方を齧らせてもらうと、土の味と香りの隙間から、ほんのりサツマイモっぽい甘い香りがした。 結局それきりイモっぽい根には当たらなかったが、それでも2時間で参加者全員で分けられる程度の量の葛の根を掘ることができた。 私はイモ部分ではないが、太そうな根を何本か見繕って貰って帰った。

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掘った後は綺麗に埋め戻しました

葛の根から葛粉を精製

こういうのは勢いだからと、その日の晩に精製の最初の段階をやってみることに。
まずは葛の根を砕かねばならない。

丸めたアルミホイルで擦りながら洗うと白っぽくなるが、放って置くとすぐに褐変する。 見た目もそうだけど、そんなところもごぼうっぽい。とれるのかな、でんぷん。

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いびつなごぼうみたいだが葛の根

これを金づちなどで叩いて砕く、とネットには書いてあったけれど我が家に金づちなどない。 麺棒で試しに叩いてみるが、固い感触で跳ね返され手がびりびりするだけで砕ける気配はない。

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木だよ、ほぼ

仕方がないので紹興酒の瓶で葛の根を殴る。麺棒よりは頼りになりそうだ。
それでもなかなか繊維が壊れてくれず、ある程度刻んでミキサーにかけようかという考えが浮かんだが、買ったばかりのミキサーに繊維が絡んで壊れたら目も当てられぬと考え直し、 心を無にしてクズを殴り続ける。
※後でミキサーを試した方々に聞いたところ、やはりミキサーが壊れたり壊れかけたりしたらしい。バイタミックスレベルのミキサーを持っている人以外はやめておいた方が良さそう。

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手ごわいぞ、葛の根

心を無にしすぎて痛覚もOFFしてしまったようで、紹興酒のフタで手を切っていることに気づいていなかった。 だらだらと血を流しながら、砕くフェーズは終了。

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もうこんなもんで勘弁してください

今度はこれを水へ入れて揉んで、中のでんぷんを水中に放つ作業だ。
砕いた葛の根をバケツに入れ水を注ぐと、あっという間に水がコーヒーのような黒褐色に色づいた。

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さきいかみたいだね

誰かが悪ふざけでさきいかをコーヒーにぶち込んだような見た目だな。
水は冷たいし、葛は固いし、なんだか寒気はするしだんだん気分が下がってきたが、 根を揉むと白いものがもやのように水中に広がっていくのが見えた。これがでんぷんだ!(多分) 僅かではあるが希望が見えたので一生懸命葛の根を揉んで、その日は眠った。

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分かりづらいが少し白いでんぷんが染み出しているのだ

その日の夜は38℃越えの高熱がでてたっぷりうなされた。 身体を動かすイベントに参加するとすぐ熱が出るの、どうにかしたいところである。
それはさておき、葛の様子は。

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揉みたてより色が濃く、透明度がUP

水の濁りが収まっているようにみえたので、根を取り出して上澄みを流してみると沈殿物が!
白っぽいでんぷんのようなものが見える。これが葛粉か。

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これが多分葛粉のもと

上澄みを捨てては新しい水を入れて混ぜ、沈殿したらまた上澄みを捨て・・・これを10回以上繰り返してようやく水が澄んできた。 この過程の写真が一切ないのは、私が葛とは全く関係ない要素で生活全般のやる気を失っていたからである。 生きるのに最低限のこと+葛の水換えだけを行う生活。記憶もあまりない。

そのうえ、手が滑ってでんぷんの半分くらいを上澄みと一緒に流してしまった! 残った量では葛餅を作るどころか葛湯さえ危うい。どうしよう。

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バケツの底にわずかにへばりついた葛粉

葛粉から葛餅をつくる

そんな私へ救いの手が差し伸べられた。
先日、葛の根掘りを一緒にしたメンバーのうち何人かが葛粉の精製に成功したので、一緒に葛餅作りませんか、と。 本当にありがたいことです。

お言葉に甘えてクズの集まり~葛餅づくり編~に参加させていただいた。

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各々持ち寄った葛粉

金づちで叩いたり、ミキサーで粉砕したり、ミキサーを壊したり・・・各人の葛粉精製の苦労話で盛り上がりながら美味しい手作りご飯をいただいて、すっかり満足。何しに来たんだっけ・・・?

そうそう、葛餅を作りに来たのだった。
私はすっかりビールで出来上がっており、手際よく葛餅が作られているのを眺めていただけである。
まず、葛粉を5倍の量の水で溶く。

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水で溶いた感じは真っ白だ!

鍋に移して火にかけ、底に木べらを押し当てながらかき混ぜる。 熱が入ったところからゲル化していくので、しっかり底からかき混ぜるのがコツらしい。

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ねりねり

サラサラの液体が次第に粘性を帯び、透明感も出てきた。 真っ白だった色も茶色くなってきた。前に市販の葛粉で作った時は茶色くはならなかったので、これは手作りならではの(不純物の)色かな。

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葛餅とは思えぬ色

完全にゲル化したら火からおろし、容器に移して水で冷やす。 一度固まったらもう水には溶けない。

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溶けそうで怖いけど溶けない

冷えたらお皿に盛って完成。
まずはそのままの葛餅の味を確かめる。
ごぼう・・・
ほとんど味という味はないが、注意深く味わうと薄めたごぼうのゆで汁のような風味の中に、かすかな甘みとごぼうではない風味を感じる。 食感はいわゆる葛餅とは少し違う、ニチャッとした感じ。精製度の低さからこのような食感の差が生まれたのだろうか。

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これが正真正銘、一から手作りの葛餅だ

葛餅と言えばキナコと黒蜜だろうということで、かけて食べてみる。
うまい。これは葛餅だ。葛餅ってもしかしてキナコと黒蜜のことだったのでは。いやいや。 汗を流して葛の根を掘り、根を砕き、毎日欠かさず葛粉のお水の世話をしたからこそのこの味(私の努力は実らなかったが)だな。

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葛餅とは・・・

葛の根から葛餅を作る試みは成功したんだな。よかったよかった。
自分の葛粉の大半を流してしまったことで最後ちょっと他人事感が出てしまったが、こうして心優しい方々のおかげで成果物を食べさせて貰うことができ、とても嬉しかった。

他にも残った葛粉で葛湯を作ったり、葛の根そのもので葛根湯モドキを作ったりして葛の味を十分に味わった一夜となった。

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玉置さん曰く「飲める泥水」こと、葛湯

葛根湯は葛の根のほかに甘草や桂皮など色んな生薬を一緒に煮出して作るそうだ。 これは本当に体に良さそうな味がした。甘草や棗の甘みがしっかり出て飲みやすい。

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葛根湯って葛の根だけが入ってるわけじゃないのね

また次の冬も、人が集まったら葛の根を掘りたいな。
あんなに苦労したのに、そう思える不思議な楽しさが葛掘りにはあった。

番外・股関節は大切に

葛の根を掘っている時になんとなく右股関節に違和感が発生し、そのまま放って置いたらどんどん悪化した。

痛くて妙な歩き方になってしまうくらい。一か月ほど経過しても全く良くならないので、人に勧められて生まれて初めての鍼灸院へ行った。 先生には「股関節どうしたの。かなりひどいね。交通事故?」と言われた。 「違います。」と答えたのだが、その後も「本当に交通事故とか遭ってない?すごい痛めてるよ」と2回同じことを言われた。

普段運動していない人が葛の根を掘ると、交通事故レベルで股関節を痛める場合があるので気を付けて。 ちなみに股関節はその鍼で治りました。